2018.4.3 17:53

【高橋信之コラム】半魚人に恋した女性の話

【高橋信之コラム】

半魚人に恋した女性の話

特集:
高橋信之
ラバーマスクを抱くミリセントのパブリシティショット。

ラバーマスクを抱くミリセントのパブリシティショット。【拡大】

 ・・・といってもアカデミー賞受賞で盛り上がっているギレルモ・デルトロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』の話じゃありません。

 同作のイメージヒントとなった『大アマゾンの半魚人』(1954)のクリーチャーデザイナーをつとめた女性デザイナーのミリセント・パトリックの話。

 第一次世界大戦前にアメリカに移住したイタリア貴族カミッレ・カレス・ロッシ男爵の娘として1915年に生まれたミリセント嬢は、幼少時はピアニストへの進路が期待されましたが、高校卒業後は美術学校に進み、ディズニースタジオでアニメーターの職を得ます。

 父カミッレは欧州様式にたけた建築家で、新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト(映画『市民ケーン』のモデルね)がサン・シムノンに建てた邸宅の建築を指揮したことでも知られており、美術の才能にたけた血筋だったようです。

 戦後まもなくユニバーサルスタジオ系列の美術工房に移籍し、初のモンスターホラー立体映画『大アマゾンの半魚人』のデザインで認められました。

 この評価を契機にユニバーサルスタジオのメイクアップ部門のリードデザイナーに抜擢(ばってき)されます。

 当時の宣伝部もモンスターデザイナーが美貌の女性ということも売りにしようとして、数多くのパブリシティショット写真を撮っています。

 翌年には『宇宙水爆戦』のメタルーナミュータント、エグゼターのデザインも手掛けますが、これらは社の方針によりノンクレジットとなります。どうやら「半魚人の女性デザイナー」をアピールしたあまり、造りモノ感が前面に出てしまったことで神秘性が薄れたことを反省したようです。

 スタッフクレジットに載らなかったことで長らく惑星メタルーナの昆虫ミュータントの生みの親は正体不明になってました。

 『大アマゾンの半魚人』1954

 『宇宙水爆戦』1955

 余談ですが1960年代後半、本邦初の本格的特撮テレビドラマ『ウルトラQ』『ウルトラマン』に登場した「海底原人ラゴン」は、もちろん「大アマゾンの半魚人」の影響下の創作。

 ただし淡水魚から進化したギルマン(半魚人)と猿人から進化したラゴン(海底原人)とは、顔の作りが違っています。

 このミリセントさんの美貌は評判となり、女優としても当時さかんに作られた西部劇に多く出演したといいます。40歳過ぎてからのデビューということになりますね。

 テレビシリーズ『ララミー牧場』などにもゲスト出演していることが確認されます。

 晩年は絵本作家としても作品を残したそうで、その作品を見たくて探しているんですが、なかなか見つかりません。

 半魚人に恋した女性の話とか描いてたら面白いんだけどな~・。

高橋 信之

「高橋 信之」イメージ画像スタジオ・ハードデラックス株式会社 代表取締役 東京国際アニメフェア実行委員 日本アニメーター・演出協会 応援団長 アニメ記者クラブ/アニメプレスセンター 起案者・理事「出版や広告、商品開発、映像メディアで活動するプロデューサー/プランナー。アニメ、SF映画、ビデオゲーム、玩具、デジタルデバイスなどを得意分野とし、多くの雑誌編集者やデザイナー、映画監督と交流する。

  • 造形の始まりは、まずスケッチから。しかしスタッフというより女優に近いいでたちだ。
  • 工房で粘土原型(奥)とスケッチとラバーマスクとの差異を点検中。
  • ラバーマスクへのペイントという設定のパブリシティショット。広報用にわかりやすくしているが、こんな作業風景はあり得ません。
  • 水中を泳ぐギルマンのなにかをスタッフに伝える設定のパブリシティショット。なにを指示してる?
  • 撮影現場(または宣伝スチール撮影会)でギルマンのスーツに陰影をつける。
  • 『宇宙水爆戦』の遊星メタルーナの昆虫ミュータントの宣伝ショット。こんなシーンはありませんでした。
  • 制御不能となり司令官エグゼターを襲う昆虫ミュータント。
  • ミリセント・パトリックの名前のクレジット復活運動もあったけど、どうなったかしら?