2021.3.11 12:00

【ベテラン記者コラム(118)】生が一番、ファンと触れ合う日常が戻ることを願う

【ベテラン記者コラム(118)】

生が一番、ファンと触れ合う日常が戻ることを願う

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 普段はサインや写真をせがまれるアスリートたちが逆の立場になることがある。2年前の女子ゴルフの国内ツアー最終戦「LPGAツアー選手権リコー杯」のときが、そうだった。テレビのスポーツニュース番組の取材で会場の宮崎CCにやってきたのが、ジャニーズの亀梨和也。選手たちは大はしゃぎ。うっとりとイケメンのアイドルを見つめていた。

 当然ながら、おっさん記者には絶対に見せてはくれない笑顔である。恥ずかしそうに近づいて、スマホを握りしめて写真をおねだりする選手もいた。亀梨クンが快くOKしてくれると、また大騒ぎだった。

 2004年のアテネ五輪前に女子ソフトボールの代表合宿にテレビの取材で福山雅治がやってきたときもしかり。どんな場面でも動じない絶対エースの上野由岐子も少し浮足立っていた。競技を離れれば、みんなごく普通の女性だった。

 かくいう自分も、おねだりをしたことがある。1990年6月に米ニュージャージー州アトランティクシティで行われたボクシングのマイク・タイソンとヘンリー・ティルマンとの一戦。その年の2月に東京ドームで、プロ初黒星となる衝撃のKO負けを喫したタイソンの再起戦をリングサイドで見ていたのが、ハリウッド俳優のウィレム・デフォーだった。

 アカデミー賞作品賞に輝いた映画「プラトーン」で壮絶な最期を遂げたエリアス軍曹を演じた俳優が目の前にいる。ゴングまではかなり時間があり、まだまばらな客席に早くも座っていた。おそらくもう二度と会えることはない。意を決して、記者仲間と2人で拙い英語で話しかけた。交渉成立。嫌な顔ひとつせず、なんと自ら肩も組んでくれた。笑顔でのツーショット写真は今でも宝物の1枚だ。

 国内女子ゴルフのツアー再開戦となった先日の「ダイキンオーキッドレディス」は観客を入れて開催された。コロナ禍で無観客試合が続き、実に一昨年の最終戦以来、1年3カ月ぶりのことだった。だが、続く2試合は無観客で実施。4月の試合も既に2試合の無観客が決まっている。

 テレビ中継では絶対に伝わらないものがある。選手と直接触れ合うことの大切さ。幼いころに観客としてトーナメント会場を訪れ、憧れの選手にサインをもらったり、声をかけてもらったことに感動してプロになることを決めた選手も多い。

 コロナ禍で取材もまだ制約が多い。亀梨クンのような人気者がトーナメント会場を訪れるのは当分先のことだろう。見る者も、見られる者も、そして、もしかしたら宝物の写真が増えることをひそかに期待しているオヤジ記者も日常の現場が戻ってくることを心から願っている。(臼杵孝志)