【竿々学々】
――今シーズンは、暖冬だと思っていたら大間違いでしたね。北陸や東北、北海道では連日大雪、関東地方でも朝夕は氷点下になることも珍しくないですものね。
「ああ、確かにな。しかし、このコロナ禍でタナゴ釣りにも行けないし、仕事も先週から、自宅勤務になってずっと家にいる。なので北国の人には申し訳ないが、今のところ大きな“実害”はないけどな」
――そうですね。父も師匠も外出しにくい状況ですよね。そんな中なんですが、父から『八景からカサゴ釣りに行きませんか』と師匠に聞いてこいって言われて来たんですよ。
「カサゴの旬は、何といっても冬だからな。一年中釣れる魚だけに“旬”が分かりにくくなっちまっているが、冬の間はひと味、イヤふた味は違うからな」
――父も同じことを言っていました。『この時期のカサゴの煮付けの味は、ノドグロやキンキにも負けない』って。最近のカサゴの釣果はどうなんですか。
「金沢八景には、周年カサゴの乗合船を出している船宿があるんだが、ずっと安定した成績を上げている」
――私、カサゴ釣りって大好きなんですよ。胴突き仕掛けに魚の切り身を餌にした釣り方って最もオーソドックスな釣り方じゃないですか。
「おお、俺も大好きな釣り方だ。最近じゃカサゴ釣りもワームを使ったりジギングなんかでやる人も多くなっているが、あのオーソドックスなスタイルは捨てがたいよな」
――ルアー釣りも面白いとは思いますが、カサゴはやっぱり胴突き仕掛けで釣りたいですよね。
「お前も、だんだん父君や俺に影響を受けてきたようだな。彼氏はルアー釣りでやりたがるだろうに」
――ええ、彼はめったに餌釣りをしませんからね。でもいいんです。師匠じゃないですが、釣りはどんな釣りでもつまらないものはないですから。私、カサゴは胴突き仕掛けで釣りたいんですよ。
「おお、いいね。それじゃ、“特餌”を持って出掛けるか」
――“特餌”って何ですか。
「実は、小型のハゼを冷凍保存して置いたんだ。ハゼはカサゴの好物だからな」
――へ~、そうなんですか。知りませんでした。
「父君にハゼを持って行くからと伝えておくれ。今シーズンは、十分な数があるから餌の心配はいりませんと」
――はい。分かりました。