2020.8.29 05:00

【甘口辛口】伊藤正徳さんと後藤浩輝騎手の切っても切れない師弟関係 天国で再会した弟子に優しい笑みを浮かべているに違いない

【甘口辛口】

伊藤正徳さんと後藤浩輝騎手の切っても切れない師弟関係 天国で再会した弟子に優しい笑みを浮かべているに違いない

伊藤正徳さん

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 ■8月29日 JRAで騎手、調教師として活躍した伊藤正徳さんが71歳で亡くなった。6月にテレビでGIの解説をしていただけに驚いた。管理馬ローエングリンのフランス遠征(2003年夏)の際、同じホテルに泊まり密着取材した日々は思い出深い。フランスでは、同馬の主戦だった後藤浩輝騎手が調教をつけていた。

 伊藤さんと後藤騎手は切っても切れない関係。ローエングリンが重賞初勝利を飾った03年の中山記念は二人を語るうえで欠かせない。「久々に先生に頭をなでられて一瞬、18か19(歳)の頃の自分に戻ったような気分になった。これで振り出しに戻ったというか…」と感慨深げだった。

 デビューして12年目、かつて所属していた厩舎の馬で初めて取った重賞タイトル。そこに至るまで回り道があった。一流騎手と同じことを求める師匠に反抗心しか生まれず、フリーを選び厩舎を飛び出た。

 疎遠となった師弟コンビが再び結びつくきっかけは弟子の不祥事だった。後輩騎手に対する暴力事件で4カ月間の騎乗停止処分を受けたとき、師匠はこう告げた。「これから、俺と二人で一から出直そう」。弟子がご迷惑をかけて申し訳ありません、と厩舎を回って頭を下げていた師匠のひと言に涙が止まらなかった。ローエングリンでの重賞勝利は師匠への恩返しだった。

 ところが、15年2月に弟子が先に旅立ってしまった。自ら命を絶って。その後の定年までの4年間は、失ったかけがえのない存在に思いをはせていたのか魂の抜けた顔を見せることがあった。天国で再会した師弟は、どんな話をしているのだろう。「俺より先に逝きやがって」と言いながらも優しい笑みを浮かべているに違いない。(鈴木学)