2020.5.23 05:00

【甘口辛口】「限界までチャレンジしたい」 ひたすらに前を向く池江璃花子に胸を打たれた

【甘口辛口】

「限界までチャレンジしたい」 ひたすらに前を向く池江璃花子に胸を打たれた

池江璃花子

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 ■5月23日 先日、スポーツ青春小説を得意とする友人の作家と久しぶりに会った。コロナ弱者が相手の仕事をしている家族がいるため不要不急の外出は一切せず、公共交通機関を使ったのは2カ月半ぶりだという。さぞかし執筆がはかどったろうと思いきや本人は暗い顔。「コロナ関連のテレビばかり見てしまい…」。

 2011年3月11日の東日本大震災後、この国に住む作家は、震災と原発に触れずに執筆を続けるか、自作に何らかの形で言及するか、一時期小説を書けなくなった-と聞いたことがある。コロナ禍でも同じ事象が起きているわけだ。

 友人は外出自粛要請が出た当初、創作活動の好機と張り切ったが、「巣ごもりで読書する人が増えたといわれるけど、自分の新作を手に取ってくれるのか」。世の中はエンターテインメント小説に目を向ける暇はない、と後ろ向きになったそうだ。

 そんな折に小欄が目にしたのは、ウィッグ(かつら)を外して超短髪姿を披露した競泳選手、池江璃花子の写真。白血病治療の副作用で髪が抜けた時期があったが、「ありのままの自分を見てもらいたい」との思いから公開した。

 その10日ほど前に放送された「NHKスペシャル」は涙なしには見られなかった。痛ましさや哀れみからではない。持ち前の明るさで前を向く19歳に胸を打たれた。泳ぐことが日常だった彼女から、病が日常を奪った。退院後、コロナ禍という追い打ちをかけられても「ふり向かずに 前へ」のタイトル通り、「できるところまでやりたいし、限界までチャレンジしたい」と言える姿に勇気をもらった。友人の作家も彼女のように前を向き、意欲的に執筆して新作を待つ読者を喜ばしてほしい。(鈴木学)