2019.7.16 05:00

【甘口辛口】どん底を味わった渡辺明新棋聖 豊島名人との戦いで見せた「平成代表」の矜持

【甘口辛口】

どん底を味わった渡辺明新棋聖 豊島名人との戦いで見せた「平成代表」の矜持

 ■7月16日 先週12日の将棋王座戦挑戦者決定トーナメントの準決勝に注目していた。その3日前に渡辺明二冠(35)に1勝3敗で棋聖位を奪われた豊島将之名人(29)と、タイトル100期を目指す羽生善治九段(48)の一戦。3冠が2冠に減り、逆に渡辺に目下最強の証しとなる3冠を許したショックも感じさせず豊島が決勝に進んだ。

 ふつうなら逆転ホームランを打たれた投手と同じで、動揺し次に四球を出したりして崩れるものだが、まるでマシンの如く、何事もなかったかのように指した。羽生が人間対人間の戦いだった昭和の名残を残す棋士なら、豊島は将棋ソフトの評価値によって研究を進める令和の代表者だろう。

 ならば棋王、王将と合わせ3冠となった渡辺新棋聖は…。「スピードと逆転で相手を葬り去る圧倒的な終盤力。まだ人間のにおいも残った平成の代表者ではないか」とある棋士はいう。平成20年に初代永世竜王、29年に永世棋王を手にしながら一昨年度、竜王を失冠し順位戦ではA級から陥落と、どん底を味わった。

 昨年度は勝率8割、順位戦も全勝でA級復帰と見事に復帰した。今回のヒューリック杯棋聖戦5番勝負を前に開かれたイベントで渡辺はこう話したという。「私が止められなかったら、完全に令和の豊島時代の幕開けになる。平成の棋士としてそれを止められるかどうか、全力を尽くしたい」。

 豊島が防衛したら若いだけにアッという間に5冠、6冠の流れになったかもしれない。阻止した渡辺は6年ぶりの3冠復帰で、逆に自身達成していない4冠の期待も高まる。若手がソフトで強くなりソフトに翻弄される時代に、平成代表棋士の矜持(きょうじ)を見る思いがした。 (今村忠)