2018.9.21 05:00

【甘口辛口】母の死と福永騎手の負傷という試練を与えられたワグネリアンが見せる走りとは

【甘口辛口】

母の死と福永騎手の負傷という試練を与えられたワグネリアンが見せる走りとは

ワグネリアンと福永祐一騎手

ワグネリアンと福永祐一騎手【拡大】

 ■9月21日 今月6日に北海道地震が起きた際、震源地が数々の名馬を生んだ国内最大の競走馬生産牧場、ノーザンファームのすぐ近くなので気をもんだ。同牧場の吉田勝己代表から「人馬とも無事です」という返信がすぐに届いて安心したが、その後1頭だけ命を落とした馬がいたことを報道で知った。今年のダービー馬ワグネリアンの母ミスアンコールだった。

 放牧中、地震に驚いて骨折したらしい。「驚きやすい子馬ではなく母馬が死ぬとは」と、ある生産者。「よりによってダービー馬の母とは間が悪い」と思ったが、吉田代表によると、金子真人オーナーは愛馬を悼みつつ「みんなの身代わりになってくれたのかな」と牧場を責めなかったそうだ。それほど度量のある人だからダービーを4勝もできるのだろう。

 歌人、劇作家など多方面で活躍し、競馬好きでも知られた寺山修司が生きていたら、大地震で母を亡くしたダービー馬を叙情的につづったことだろう。生まれ落ちた直後に難産がたたって母が死に、デビュー直前に父も他界したメジロボサツ(1965年朝日杯3歳Sなど重賞3勝)を「孤児」と呼んで人生を投影させた名エッセーを書いたように。

 実際は乳離れ後の競走馬にとって母がいないのは不幸とはいえず、母の死を悲しむこともない。悲劇ではあるが、種牡馬になるダービー馬の母として未来に血を残すことができるのはなによりだ。

 そうはいっても、ワグネリアンが今週末の秋初戦を前にして、母を失った上に、デビューから手綱を取ってきた福永祐一騎手が落馬負傷で乗れなくなったことに数奇な運命を感じている。試練を与えられたダービー馬がどんな走りをするのか見届けたい。 (鈴木学)