2018.7.20 05:00

【甘口辛口】文筆業へ専念し直木賞候補にもなった元同僚へ送るエール

【甘口辛口】

文筆業へ専念し直木賞候補にもなった元同僚へ送るエール

 ■7月20日 同期入社の彼は、サンケイスポーツ記者として採用され、約2カ月にわたる研修後、半年の期限付きで産経新聞埼玉総局に配属された。その間に日本中の話題をさらった東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の取材に携わった。

 産経新聞採用だった小欄は福島支局へ行き、特に大きな事件に遭遇することなく1年8カ月後に産経新聞の運動部へ。再会した彼は、プロ野球記者として第一線で活躍していた。地方球場で行われたオープン戦でのこと。取材後に宿泊先へ戻ると、瞬く間に数本の記事を書き上げた彼の姿に目を見張るとともに、2年間で大きく水を開けられた気がした。

 野球担当になったとき、上司からの指令は「長嶋一茂をつかまえろ」だったと後日、彼から聞いた。試行錯誤が続いたそうだが、再会したときには指令を達成していた。競馬担当になると、飛ぶ鳥を落とす勢いだった武豊騎手とすぐに仲良くなる。難攻不落といわれる相手の懐にすっと入れる人心掌握に、不器用な小欄は嫉妬を覚えたほどだ。

 野球デスク時代は、他紙に特ダネが載っているのではと気になり、朝刊が届くまでまんじりともしない日もあったという。生き馬の目を抜く世界に身を置き、現場でもデスクでも秀でた新聞記者だった彼が、文筆業に専念するため会社を辞めると聞いたときは驚く半面、腑にも落ちた。

 それから約10年。本城雅人のペンネームで書いた彼の小説が、おとといに発表された第159回直木賞に初めてノミネートされた。新聞社が舞台の「傍流の記者」(新潮社)の描写がリアルと評判なのは当然。彼の中にある新聞記者の血肉から出たものだから。受賞を逃したが、次のチャンスは必ずある。(鈴木学)