2018.5.28 05:00

【甘口辛口】鶴竜の連覇も…栃ノ心一人で持ったようだった夏場所

【甘口辛口】

鶴竜の連覇も…栃ノ心一人で持ったようだった夏場所

技能賞と敢闘賞をダブル受賞した栃ノ心は、2つのトロフィーを手に笑顔=両国国技館(撮影・大橋純人)

技能賞と敢闘賞をダブル受賞した栃ノ心は、2つのトロフィーを手に笑顔=両国国技館(撮影・大橋純人)【拡大】

 ■5月28日 鶴竜の連覇で終わった大相撲夏場所は、関脇栃ノ心一人で持ったような場所だった。横綱稀勢の里、大関高安が全休し大関豪栄道も9日目から休場した。そんな中で大関とりがかかった栃ノ心が無人の野を行く強さを見せ、12日目には横綱白鵬に圧勝して12連勝。大関昇進には十分すぎてお釣りがくるほどだった。

 しかし、「好事魔多し」とはよくいったもので、13日目の正代戦で引き落とされた際、右手首を強打。翌日の鶴竜戦は右を差し込めずに敗れたのは残念だったが、12日目までの完璧な内容は13勝2敗の優勝次点という記録とともに、記憶にも残る強い大関の誕生劇でもあった。

 右膝の大けがで平成26年春場所には幕下55枚目まで落ちた。振り向けば三段目。昔から「番付一段違えば虫けら同然」といわれ三段目では博多帯や外套の着用も認められない。まさに“地獄の淵”をのぞいたとき師匠春日野親方(元関脇栃乃和歌)の「まさかやめるつもりじゃないだろうな。あと10年取らなきゃダメだ」の一言でわれに返った。

 けがをすると「弱くなったのはけがのせい」と心が折れ、けがに“責任”をなすりつけて落ちこぼれていく力士も多い。かつて琴風(尾車親方)も膝の故障で関脇から幕下に転落しながら盛り返し大関になっている。いまの日本人力士が忘れかけている不屈の精神による復活を栃ノ心が再現した。

 目をギョロリとむき顔を真っ赤にした出番前の形相は見ているだけでも力が入る。「痛いとか一切言わない。立ち居振る舞いは昔の力士を思わせる。そこが共感を呼ぶのだろう」と藤島審判副部長(元大関武双山)。実力も精神力も二重マル。横綱に一番近い大関の誕生だ。 (今村忠)

  • 優勝し、パレードに出発する鶴竜。左は正代=両国国技館(撮影・福島範和)