2016.11.29 05:00

【甘口辛口】天才棋士・村山聖を描いた映画を見て思うこと…人間対人間に命をかけたからこそのドラマ

【甘口辛口】

天才棋士・村山聖を描いた映画を見て思うこと…人間対人間に命をかけたからこそのドラマ

■11月29日

 話題の映画『聖(さとし)の青春』を遅ればせながら見た。「東の羽生善治、西の村山聖」といわれながら1998年、29歳で夭折した天才棋士の短い生涯を描いた。幼い頃から患うネフローゼ症候群のために顔がむくみ頭はぼさぼさ。20キロ増量して聖役に挑んだ松山ケンイチの役者魂は見事で、ドキリとするほど雰囲気があった。

 入院中に父親から手ほどきを受けて将棋のとりこになった村山は、13歳で大阪に出て奨励会に入った。3年でプロ棋士になると、まるで自分の寿命を悟っていたかのように破竹の快進撃を重ね、10年足らずで名人戦挑戦権がかかる頂点のA級リーグ入りを果たした。

 折から羽生善治が史上初めて七冠を独占。同世代の村山は“打倒羽生”に執念を燃やした。2人で差しで飲んだときの「こんな体に生まれてきたから(将棋を覚え)羽生さんと指せる」とのセリフは胸を打つ。晩年は進行性ぼうこうがんを発症。「手術しなければ余命3カ月」との宣告でやむなく手術を受け、その後は看護師が控室で待機したこともあった。

 スポーツを題材にした映画では肝心の競技シーンがさまにならないとしらける。この映画では対局シーンだが、松山もさることながら羽生役の東出昌大も対局中のくせをよく研究していて、そっくりだ。駒を持つ巧みな指使い、対局場のディテールなど将棋ファンにはこたえられないドキュメントでもある。

 「2015年、コンピューターが人間に勝つ」と羽生は将棋誌のアンケートで20年前に予言し現実になったが、村山は「人間が負ける時代は来ない」と答えた。人間対人間の戦いに、まさしく命をかけた村山だからこそドラマになったのだろう。 (今村忠)