2015.2.27 05:00

【甘口辛口】三津五郎さん葬儀で菊五郎が述べた江戸前芸風の粋な名弔辞

■2月27日

 「場所がらもわきまえず不謹慎なことを…」とのそしりもあろうが、小欄は機知に富んだいい弔辞だと思った。25日に営まれた歌舞伎俳優坂東三津五郎さん(享年59)の葬儀・告別式での尾上菊五郎(72)の弔辞だ。遺影に「寿(ひさし)くん」と本名で呼びかけ愛情あふれる弔辞で参列者の涙を誘い、最後にこう語りかけた。

 「お城が好きで『姫路城が好きだ』『彦根城が好きだ』と言っておりましたが、ホステス嬢やキャバクラ嬢も好きでした。そちらの世界に行ったらネオン街でいい店を探しておいてください。私が行ったらどうぞいい店を紹介してください。お願いいたします」。

 城(じょう)と嬢をかけたところが秀逸だが、冗談半分か本当のことなのか。やぼな詮索は抜きにして参列者は悲しみの中にも、あのいかにも真面目そうな名優三津五郎の顔を思い浮かべ、一瞬現実に立ち返ってクスリとさせられたことだろう。江戸前の芸風が持ち味の菊五郎らしく粋ではないか。

 「東海道中膝栗毛」の作者で知られる江戸時代の戯作者、十返舎一九のしゃれた辞世の句を思い出す。線香の灰と「ハイさようなら」をかけ、「此の世をば どりゃおいとまにせん香の 煙とともに灰左様なら」。火葬の際は体に仕込んでおいた花火が上がったとの逸話もある。人の死には、ときとしてこんなユーモアがあってもいい。

 もっとも、葬儀の席で意図的に場をなごませようと背伸びしてキャバクラの話などしたら「不謹慎な」とたしなめられるのがオチだ。梨園という結束の堅い世界で故人が信頼していた先輩菊五郎だからこそ許された弔辞。それだけに、滅多に聞けぬ名弔辞といえるのではないか。 (今村忠)

(紙面から)