秋場所で進退かかる稀勢の里、今こそ「時々の初心を」胸に刻むとき

甘口辛口
稀勢の里

 ■8月31日 横綱として最長となる8場所連続休場中の稀勢の里にとって、来月9日初日の大相撲秋場所は進退を懸けた場所だ。夏巡業初日の7月29日、兄弟子の西岩親方(元関脇若の里)が横綱に声をかけて“心の力水”をつけたという記事を読んで、8年前のシーンがよみがえった。

 平成22年秋場所前、鳴戸部屋の朝稽古を見学した。幕下高安を相手に何番も相撲を続ける三番稽古の後、小結の稀勢の里は土俵際まで下がり蹲踞(そんきょ)の姿勢を取った。目の前には前頭筆頭の若の里。その位置からぶちかましが始まった。徳俵に足をかけ、兄弟子の体当たりを必死にこらえる。土俵際での粘り腰と不屈の根性を鍛える稽古なのだろう。先代の故鳴戸親方(元横綱隆の里)が鋭い目で見守る中、何度も繰り返された。

 稀勢の里は今、あのときと同じ土俵際にいる。もちろん、立たされている状況のこと。横綱は秋場所、背水の陣で臨む。「(秋場所は)勝負を懸ける場所。気がついたことは伝えたい。相談相手になれれば…」。4月末に西岩部屋の部屋開きを行った親方は、かつて自身の付け人を務めたこともある弟弟子を気に掛ける。

 以前にも紹介したが、稀勢の里は天台宗の元宗務総長・阿純孝(おかじゅんこう)氏から「初心忘るべからず」には3つの初心があると教わった。「学び始めた頃の初心」「年とともに経験する時々の初心」「老年期に身につけるべき老後の初心」。

 初心とは、自分の未熟さを受け入れながら試練に立ち向かっていく際の心構え。今こそ「時々の初心」を胸に刻むとき。兄弟子の思いに応えるためにも、横綱は鳴戸部屋で繰り返した、あの土俵際からの稽古を思い出してほしい。 (鈴木学)

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