いい意味で役柄と現実とのギャップが大きかった菅井きんさん

甘口辛口

 ■8月25日 職場では上司に怒鳴られ、家庭では女房に叱られる。女性が強くなったといわれて久しい日本では今や、どの家庭でも普通の日常だ。その時流に乗った最初のドラマと言えば、1973年から俳優、故藤田まことさんが主役の中村主水を演じた時代劇「必殺」シリーズだろう。

 昼はうだつの上がらない同心が、実は剣の達人。夜は悪を成敗するが、自宅に戻れば女房に加え姑からもいびり倒される。姑が「婿殿ッ」と眉をつり上げるシーンは、再放送があるたびに笑ってしまう。白木万理(81)の演じた女房「りつ」と菅井きんさんの演じた姑「せん」。2人合わせて「戦慄」となる。

 その役名設定は、菅井さんが10日に92歳で死去したニュースが流れた23日に初めて知り、制作担当のユーモアセンスにも感心した。実際、「せん」と「りつ」の存在があるからこそ主役の主水に親しみも湧いた。ただ、テレビは出演者の人間性がもろに出るメディアといわれ、菅井さんが心底意地悪な女性だったら、視聴者は笑えなかったろう。

 それでも、菅井さんは生前、トーク番組で「意地悪したいって気持ち、誰でもどこかにある。それが公にできるのだから、スカッとするわよ」と笑って打ち明けていた。しかし、実生活では1人娘が結婚する前、縁談の障害になるからと「せん」役の降板を申し出たことがある。

 娘が結婚してからは降板話は撤回。現実の婿殿と孫たちも大事に一緒に住んできた。主水に対する文句にイヤミを感じないのは、持ち前のやさしさの表れかと今にして思う。菅井さんのように、いい意味で現実とのギャップが大きい味のある憎まれ役は、1人でも多く出てきてほしいものだ。 (森岡真一郎)

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