2021.3.31 12:00

【球界ここだけの話(2280)】日本ハム・栗山監督が10年の監督生活で唯一、病床に見舞った選手とは…

【球界ここだけの話(2280)】

日本ハム・栗山監督が10年の監督生活で唯一、病床に見舞った選手とは…

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サンスポ記者の球界ここだけの話
上沢(右)と日本ハム・栗山監督 

上沢(右)と日本ハム・栗山監督 【拡大】

 開幕前の3月10日。日本ハム・栗山英樹監督(59)は横浜スタジアムのグラウンドを見つめながら、特別な感慨を抱いていた。

 「あの時、ベンチで初めて動けなかった。そして、マウンドに行くことができなかった。あんなに怖かったことはなかった。もうこれでボールを投げられないんじゃないか、木っ端みじんに体が壊れちゃったかもしれないという恐怖。今でもその感情は残っている」

 あの時。それは2019年6月18日のDeNA-日本ハム戦(横浜)。好投を続けていた日本ハム・上沢直之投手(27)に六回にDeNA・ソトの打球が直撃。左膝蓋(しつがい)骨を骨折。医師から「プロ野球界では復帰の前例がない」と告知される全治5カ月以上の大けがを負った。

 翌19日に東京都内で整復固定手術。栗山監督は病床に見舞った。「(17年10月に右足関節後方インピンジメント除去手術を受けた大谷)翔平もそうだし、(監督になってから)今まで選手の見舞いに病室まで行ったことは一度もないんだ。行けば、(復帰に向けて)プレッシャーをかけるというのが分かってるから…。でも、さすがにナオ(直之)の時はね」。100%グラウンドに戻ってこれる確証が得られなかったこその行動でもあった。

 ソトが翌日にベンチに謝罪に訪れたことを指揮官から聞かされた上沢は「ソト選手の打球は速すぎて見えませんでした。そんな打者と対戦できることは投手として幸せなんです」。人柄なのだろう。長期リハビリを終えて1軍に昇格する際には、トレーナー陣から「しっかりやってくれて、ありがとう!」と逆にお礼を言われた。そして、昨年7月28日のオリックス戦(札幌ドーム)で413日ぶりの復活勝利。その直後、上沢は開口一番「前例のないけがなんだから、僕が活躍したら、学会なんかでトレーナーが褒められるでしょ」と言った。

 栗山監督は言う。「本当に優しいヤツは強い。ナオは大けがをして、さらに心の奥行きが広がった感じがする。監督をやっていて、ちょっとだけ良かったなとかうれしかったりするのはそういう時だよね。去年復活したけど、ナオにとっての完全復活は今年。開幕投手としてまたマウンドに帰ってきた感動が必ずチームの推進力になってくれる」--。強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない。米国人作家レイモンド・チャンドラーの小説の中の名ゼリフを体現するエースがいる。(東山貴実)