【土井正博の虎戦士解析】
現役時代に通算465本塁打を放ち、西武と中日で打撃コーチを務めた土井正博氏(77)=本紙専属評論家=が注目選手の打撃を連続写真でチェックする「虎戦士解析」。今回は、ドラフト1位・佐藤輝明外野手(21)=近大=だ。西武で清原和博、松井稼頭央、浅村栄斗ら、中日で高橋周平らを育てた名伯楽は、佐藤輝の構え、スイング、体重移動を絶賛。「最高。打てんわけがない。大山(悠輔)のようになる」と太鼓判を押した。
最高だね。いい形で振れている。とくに写真の(4)(5)(6)(7)。中でも、(4)が素晴らしい。
左肘が横っ腹にピタリと入っている。この形をつくれる打者は、横っ腹がいい意味で“邪魔”をしてくれるから、そのぶんタマを呼び込める。
(4)のタイミングで後ろの肘が体の前に出てきてしまう打者が多い。佐藤輝は横っ腹に肘がついているから、バットのヘッドがまだこの写真の位置に残っている。だから(5)の形もつくれる。
パワーのある長距離打者の多くは、(4)から(5)にかけて後ろの腕と肘がグワッと前にかえってしまう。スイングがアウトサイドインになって、後ろの腕がかぶさるようになりがちだ。そんな力任せのスイングではない。
(6)で後ろの足がしっかりと踏ん張れているのもいい。後ろの足が伸び上がってしまうとタメをつくれない。(6)の形があるから、(7)(8)で軸足に上体が乗っている。体が開くとこの形はつくれない。大山も、後ろ足で踏ん張って打つ形が増えてきている。だから大山はあれだけ打てるようになった。
(7)で、踏み出した右足がめくれ始める。(8)(9)でバットを背中まで振り切っているが、(8)(9)でも右足は外に開いていかない。これもいい。普通はみんな、もっと早いタイミングで右足のつま先が開いていく。
はじめに戻って(1)(2)も、軸にしっかり乗っている。スイングスピードが速いから、(1)(2)(3)まで我慢ができる。ヘッドスピードの速くない人は早いタイミングで始動したくなるから、動き出しがもっと早い。
いいね。速いボールもゆるい変化球も、この形なら、さばける。
(8)(9)のフィニッシュの形は柳田(ソフトバンク)にも似ている。いまのスイングの時点で合格点をあげていい。佐藤輝は使えば1年目からそこそこいくよ。目をつむって使ってほしい。私が打撃コーチだったら監督にそう進言する。
戸惑うこともあるだろうし、打てないときもくるだろう。そのときはどうしたらいいか。放っておけばいい。みんな指導したくなる。打撃をさわりたくなるけど放っとかなあかん。西武で清原(和博)を預かったとき、根本さん(陸夫氏、元監督で当時は球団管理部長)にこう言われた。
「3、4年経ったら、清原が甲子園でめった打ちにした投手が(1軍のマウンドに)出てくるんだぞ。使っていけば打てんわけがない」
佐藤輝は、大学トップレベルの関西学生リーグで、即戦力と評価されている同学年の投手を打ってきた。根本さんと同じセリフを私も言おう。
「佐藤輝も、打てんわけがない」
打てなくなったら、教えるのではなく、自分からコーチに聞きに来させるようにしたらいい。スイングが似ている柳田に話を聞きにいかせるのもいい。柳田に1対1で聞いても、自分で理解できるレベルのスイングをしている。あれこれ教えすぎてはいけない。打てなくなっても使い続けてほしい。きっと、大山と同じくらいの上昇カーブでホップステップジャンプの成長を見せてくれる。(本紙専属評論家)