2020.10.13 07:30

【よみがえるノムラの金言】野村克也氏、相手が「どうぞ、どうぞ」と笑っている

【よみがえるノムラの金言】

野村克也氏、相手が「どうぞ、どうぞ」と笑っている

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よみがえるノムラの金言
さようなら 野村克也さん追悼
2014年7月11日の巨人-阪神で、巨人は三遊間に外野手の亀井を配置。しかし、野手のいない中前に運ばれた 

2014年7月11日の巨人-阪神で、巨人は三遊間に外野手の亀井を配置。しかし、野手のいない中前に運ばれた 【拡大】

 「どうぞ、どうぞと笑っている」-。コレ、どんな状況? 2月11日に急逝した野村克也氏(享年84)が、専属評論家としてサンケイスポーツに残した言葉を振り返る、ヘリテージ(遺産)連載。今回は、変則シフトに際しての、守る側と打つ側の心理を取り上げた。 (構成・内井義隆)

 最近の野球では、メジャーリーグだけでなく日本でも“変則シフト”が目につくようになった。打者によって内野手の守備陣形を変えるものだ。

 そのシフトについて、ノムさんが興味深い考察を示している。2016年12月10日付の『ノムラのすべて』だった。

 引用したのは、14年7月11日の巨人-阪神(東京ドーム)。巨人の六回の守備。

 2-4と勝ち越され、なお1死二、三塁。打者・西岡剛という場面で内野5人、外野2人のシフトを敷いた。内野の間を抜かせないことを優先し、左翼手を三遊間に、中堅手を左中間に、右翼手を右中間に配置。

 すると、ぽっかり空いた中堅へ2点二塁打された。普通なら中飛になる打球だった。

 「西岡は決して、極端なシフトの条件に合う打者ではない。広角的なアベレージヒッターである。そういうタイプに、変則シフトは逆効果でしかない」

 ノムさんはこの策に疑問を呈し、さらなる「逆効果」を説明した。

 「センターを空けたことにより、『コンパクトなスイングで、センター返し』という打撃の基本を、西岡に思い出させてしまった。大物打ちではない打者を、より謙虚にさせてしまった」

 そもそも、極端なシフトを敷く条件とは〔1〕打球方向に偏りがある強打者、それも長距離砲〔2〕その打者に長打を打たせないための手段。単打なら許容範囲。これが最大の目的という。

 その裏返しとして、シフトに潜む“わな”にも言及した。

 述懐したのは、最も有名な「王シフト」。

 史上最多となる通算868本塁打を放った左の大砲、巨人・王貞治内野手(現ソフトバンク球団会長)に対し、1964年、広島が実行。内野も外野も右方向に移動させ、三塁と左翼を空けたものだ。

 「王に聞いたことがある。左方向に安打狙いの打撃を試みたところ、慣れないことをしたものだから、バットのヘッドが返ってしまい、投ゴロになった。以後、シフトは無視したそうだ」

 実はそれ以前に、ノムさん自身も南海での現役時代、阪急にシフトを敷かれたことがあると明かした。

 監督としての印象が強いため、つい忘れがちになる。日本歴代2位の通算657本塁打をマークした右の長距離砲こそ、野村克也だった。

 で、阪急が採用した「ノムラ・シフト」は外野手4人。一、二塁間が空いていた。だから打席に立つとき、皮肉を込めて、右方向へバントのポーズをとった。

 しかし、すぐに気が変わった。なぜか。それが、今回の金言。

 「相手が『どうぞ、どうぞ』と笑っている。それで無理に流し打つことはやめた。安打になったとしても、相手には想定内。自分の打撃を崩す方が怖いし、それこそ相手の思うツボなのだ」

 シフトをする方、される方。虚々実々の駆け引きがある。