2020.6.18 12:00

【球界ここだけの話(1998)】救済の夏、甲子園の空の下“最後のノック”をもう一度

【球界ここだけの話(1998)】

救済の夏、甲子園の空の下“最後のノック”をもう一度

特集:
サンスポ記者の球界ここだけの話
磐城高前監督の木村保教諭

磐城高前監督の木村保教諭【拡大】

 今春の第92回選抜高校野球大会に出場予定だった32校への“救済措置”として「2020年甲子園高校野球交流試合」の開催が決まった。21世紀枠で46年ぶりに出場予定だった磐城高(福島)。先日、4月1日付の人事異動で福島商高に転勤した前監督の木村保教諭(49)=福島県高野連副理事長=と話をする機会があった。

 「悲しい、悔しいという思いばかりの日々の繰り返しだったから、本当にうれしい。“野球の神様はいるんだな”と思いました」。3月30日の最後のシートノック。打つ木村監督も捕るナインも号泣。「耐え忍んで頑張っていれば、必ず光は見える」と、去り行く指揮官は初めて生徒に「忍耐」という2文字をメッセージとして伝えた。それから約2カ月半…。天塩をかけて育てた部員たちは聖地の土を踏めることになった。春の段階で部員19人。甲子園ベンチ入りメンバー18人からただ一人外れた菅波陸哉(3年)も、例年から2人増の20人となる今夏の甲子園ではベンチ入り予定で、「人一倍、頑張ってきた子。憧れの地で思う存分にやってほしい」と目を細めた。

 そして、20日には県高野連の小針淳理事長とともに、磐城高に激励に訪れる。教え子たちとの再会。「まずは“よく耐えた”と褒めてあげたい」。その上で、「代替地方大会(7月18日開幕)もあるのでギアを入れないとね。選抜中止後のスローガン『春の意地 譲らない夏』をもう一度掲げ直して、さらにたくましくなって、甲子園に立つにふさわしい人間になってほしい」と話した。

 球児だけでなく、監督にも救済措置を--。そんな思いで渡辺純現監督(38)は「かなうものであれば」と、1試合限りの甲子園交流試合で木村前監督に指揮を譲りたいとの私見を語っている。現行の大会参加者資格規定では磐城の監督としての出場は不可能だが、ノッカーとしては“特例”で参加可能。木村前監督は「現場が最優先。私の感情や気持ちは出すべきではない」と多くを語らなかったが、選抜大会用に新調したユニホームは今も大切に保管されている。

 「コバルトブルーのユニホームを着た選手たちが部訓の“PLAY HARD”通りの全力プレーで、躍動している姿が見られればいい。最後までやり切ってほしい」。そのまなざしはどこまでも優しい。そして、最後に尋ねてみた。「あなたにとって高校野球とは?」。間髪入れずに返ってきた答えは「人生の宝物」だった。今夏、甲子園でもう一度行われる“最後のノック”は、最高の宝物となる。(東山貴実)