2019.8.28 12:00

【G戦士の素顔(14)】育成D3位右腕・沼田、挫折続きだった高校時代 プロ入りへ背中を押してくれた兄の存在

【G戦士の素顔(14)】

育成D3位右腕・沼田、挫折続きだった高校時代 プロ入りへ背中を押してくれた兄の存在

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川崎市のジャイアンツ球場で練習する沼田

川崎市のジャイアンツ球場で練習する沼田【拡大】

 甘いルックスとのギャップがウリの“道産子右腕”だ。育成ドラフト3位・沼田翔平投手(19)は最速146キロを誇り、将来が楽しみな投手の一人。身長は175センチと決して高くはないが、伸びと切れのある直球が魅力だ。

 誰が見てもイケメンと分かる端正な顔立ちだが「モテたことはいないですね。野球一筋でやってきました」と純朴な好青年。旭川大高3年時には甲子園にも出場し、高卒でプロの門をたたくなど順風満帆な人生に見えるが、高校時代は挫折の連続だったという。

 「入学して2日で地獄だと思いました。1年生で練習についていくのが大変だったせいなのか。余計に辛く感じて。最初はちょっとやっていけるのかなとなって。結構走り込みがすごかったので」

 入学後すぐに高校野球の洗礼を浴びた。投球練習か走り込みか、トレーニングか。練習量も中学時代とは違い、ついていくのが大変だったという。それでも、甲子園の土を踏むため、名門校に入学しただけに「口では辞めたいとかみんな言っていましたけど、本音では思ってなかったですね。甲子園行けるなら」と歯を食いしばった。

 2度目の挫折は2年時だった。体の使い方にこだわる同校の練習を積み重ねることで、球速は徐々に上がっていったが、「試合で抑えられない。どうやったら抑えられるんだろうって。武器を作らないといけないと。速いだけじゃ駄目なのかと」と壁にぶち当たった。

 球速は速くなったが、それだけでは限界がある。コーチからは「(さらに)球速を求めるのか、切れを求めるのか、コントロールを求めるのか。それは自分で決めろ」と言われた。そこで参考にしたのがライバルたち。「120キロで甲子園に行っているピッチャーっていっぱいいるじゃないですか。それを見て、切れとコントロールは最低条件なんだろうなと思った」と2年の冬は切れと制球力を求めて、練習に励んだ。

 切れはキャッチボールで手に入れた。投げる際はただ力強くリリースするのではなく、指先で押し込むようなイメージ。距離が離れても投球練習をするような感覚でキャッチボールを行うことで、マウンドに上がった時に低めの球が伸びていくようになった。「中学校の時は無駄な筋肉もなくて、繊細に投げられていた。(指に)かかるなという感覚があったんですけど、そういえばなくなっているなと思って」と野球を始めた頃の、無駄のないフォームの感覚を取り戻していった。

 そして、制球力の向上はやはり投球練習。「オーソドックスなピッチャーって、上(高め)を使って低めに変化球って多いじゃないですか。それだけじゃ高校野球は勝てないなと思って。あの試合数で一発勝負で。横も使わないといけないなと思った」とひたすら両コーナーに投げ続けた。

 140キロを超える直球に、切れと制球力が備わったことで、必然と甲子園への道が開けたのだ。だが、実は3年春にも大きな挫折を味わっていた。右肩に痛みが走り、医師には「投げるな。投げないで、治ればいいね」と言われたほど。それでも、「投げないといけない使命感みたいなのがあって」と投げ続けた。痛みは引かなかったが、高校最後の夏。聖地に行くために、迷いはなかった。

 そして、高校野球が終わり、進路を決めるときがきた。プロ志望届を出すか、出さないか。両親には将来のことも考えて大学進学を勧められた。もちろん、親心だ。だが、9歳上の兄・真輝(まさき)さんが背中を押してくれた。

 「『夢を求めていいんじゃない』って。背中を押してくれましたね。しっかり。『大学行っても後悔しないと思うし、プロに行っても後悔しないと思う。プロに行ったら、大学に行ったことは分からないから後悔しないよ』と言われて。それなら挑戦しようと思いました」

 実は、野球を始めるきっかけを作ってくれたのも兄だった。小学生のときはバレーボールに打ち込んでいた沼田少年。全道(北海道大会)で優勝するほどだったが、左膝を痛め、アタックを打てなくなった。そのため、兄がしていた野球の道に進むことに。けがをしたこともそうだが、兄の存在が自身を導いてくれた。

 多くの挫折を経験して飛び込んだプロの舞台。まだ、1軍の試合には出られない育成選手だが「一番低いところを知っていたら、一番上を目指しやすいかなと。下克上じゃないですけど、はいあがろうと。受け入れて、気持ち入れましたね」。始まったばかりのプロ野球人生。サクセスストーリーは、自身で作り上げる。(赤尾裕希)

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