2019.8.7 12:00

【G戦士の素顔(12)】増田陸、覚悟を決めた手術決断 考えを変えたある本との出合い

【G戦士の素顔(12)】

増田陸、覚悟を決めた手術決断 考えを変えたある本との出合い

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G戦士の素顔
川崎市のジャイアンツ球場でリハビリに励む増田陸

川崎市のジャイアンツ球場でリハビリに励む増田陸【拡大】

 覚悟を決めての決断だった。ドラフト2位・増田陸内野手(19)=明秀学園日立高=は、有鈎骨の骨折とTFCC(三角線維軟骨複合体)損傷の完治を目指し、6月下旬に左手首の手術を受けた。

 高校2年頃から、左手首の痛みと闘ってきた。3年春には選抜甲子園大会に出場したが、3月上旬に沖縄に遠征した際から「激痛でバット振れなかった」という。選抜大会は金沢成泰監督と相談し、練習ではバットを振らず、ぶっつけ本番。アドレナリンの効果もあってか、大舞台で安打を記録した。

 だが、その後、病院で診察を受け、左手甲部分の疲労骨折と診断された。最後の夏は、茨城県大会敗退。高3の5月頃に右肩も痛めていたため、プロ入りまでは右肩の治療に専念。左手首にも痛みが残っており、バットもほとんど振らず、回復を願った。そして、今年1月の新人合同自主トレ。バットを握り、振ってみると再び激痛が走った。

 病院で診察を受けたが、保存療法で進めていくことが決定。痛みも少し減り、試合にも出場していたが…。5月中旬に石川で行われた3軍戦でのことだった。「試合中に二遊間の打球が飛んできて、捕ったんですけど、(手を)着いたときに痛みが走ったんです」。再び病院を受診し、手術が決定した。

 「怖さはなかったです。不安もなかったんです。逆に、痛みがありながらやるのも1年目でしんどいかなと。1年目でましてや3軍で。このまま痛みがありながらやっていても、できないなと思って」

 トレーナーともしっかり話し合いを重ねた。手術時期を見ても今季中の復帰は絶望的で、「今季はプレーできない」と言われた。それでも、「覚悟はありました」と増田陸。同期入団はD1位・高橋(八戸学院大)をのぞき、全員が高卒の同学年。2軍戦に出ているメンバーもいる中で、自身はプレーできなくなることになるが、決して下を向かなかった。

 「ドラフト2位で入ってきて、期待されている中でこういうことがあって。周りからすれば『増田なにしてんねん』ってなる。山下(航)とか、黒田とかが2軍で出ていて、すごい悔しい思いもあったんですけど、そこでめそめそしていても一緒かなと思って。手術をして、この年は体作り。みんなができないことをやって、2年目で飛躍しようと。それを目標として、今はやっています」

 体作りのためには、まずは食事から見直した。球団の栄養士さんから「いまけがをしているのを早く治すためにも食事が大事」と助言を受け、苦手な野菜も積極的に食べるようにした。「最初は無理やり野菜をとるようにして。いまは普通に好きとまでは言わないですけど、食べられますね」と嫌いだったトマトも食べられるようになった。その他にもタンパク質を多くとるなど、早期回復に努める毎日。練習量もあるが、体重は5-6キロ増えた。

 そんなリハビリに励む中、増田陸は1冊の本と出合った。「ずっと暇な日が続いていて、何しようかなと思って。携帯ばかり触っていても意味ないので」と出向いたのは、ジャイアンツ寮内にある図書室。巨人のOB選手を扱った本も多く並べられており、その中で手にとったのは『不屈の男 吉村禎章』(ベースボールマガジン社)だ。

 まさに、不屈の男の物語だ。現打撃総合コーチの吉村禎章氏(56)は現役だった1988年7月6日に、札幌市円山球場で行われた中日戦で左翼の守備に就いていた際、打球を追って中堅手とぶつかり、左膝の靱帯(じんたい)を3本断裂するという「交通事故レベル」の大けがを負った。

 当時の日本の医療では手に負えず、米国で手術を受けたほど。だが、過酷なリハビリで約1年後に復帰。90年にはカムバック賞を受賞し、リハビリ時に使用していたギプスは、いまでもジャイアンツ寮のロビーに飾られている。

 真剣に読み進めた増田陸は「本の中で、『吉村さんのけがと苦悩のことを考えたら、他の少しのスランプとかはたいしたことではない』というような内容が書いていて。自分のけがも吉村さんのけがに比べたら、全然大したことない。自分のこんなけがで悩んだり、下を向いている場合じゃないなと思って。逆に頑張れますね」と大先輩の復活に向けた姿に感銘を受け、必死に前に進もうと努力している。

 19歳での大きな決断。そこに迷いはなかった。すべてをプラスに変えて、必ずや1軍の舞台にいってみせる。そこで待つのは、“先輩”である吉村コーチかもしれない。(赤尾裕希)

  • 川崎市のジャイアンツ球場でリハビリに励む増田陸
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