打者・大谷の前半戦を分析

科学特捜隊
6月のレンジャース戦でハメルズの変化球に空振り三振を喫した大谷。左腕対策が後半戦の鍵を握っている (共同)

 科学的なアプローチで斬り込むサンケイスポーツ東京発刊55周年企画「科学特捜隊」の第12回は米国時間20日(日本時間21日)から後半戦に臨む、米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平投手(24)の「打撃」に注目する。6月上旬に右肘内側側副靱帯の損傷で一時離脱したが、3日(同4日)のマリナーズ戦から打者限定で復帰。各種スポーツのデータを収集、分析する「データスタジアム社」の協力により、前半戦の「打者・大谷」を徹底解剖する。 (取材構成・伊藤昇)

 現代野球ではメジャーでも類を見ない、投打二刀流に挑戦中の大谷。投げては160キロ台の直球を連発し、打っては大きなアーチを描く姿は、大きな衝撃を与えた。6月に右肘を痛めて投球が封印中のため、今回は前半戦で24歳が米国のファンを熱狂させた打撃の長所と課題を振り返る。

 まずは長所だ。ストライクゾーンを内外角と高低で9分割した表を見ると、対右投手では半数以上の5つが打率3割越えのホットゾーンとなっている。特に低めに強く、内外角どちらも苦にしていないことが分かる。4月27日にはヤンキースのルイス・セベリーノ投手(24)から97マイル(約156キロ)の直球を右越えに本塁打。右腕に「もう内角には投げられない」といわしめた。

 打撃成績はここまで打率・283、7本塁打。対右投手に限れば・324で、本塁打もすべて右投手からだ。1・0以上で一流とされるOPS(出塁率と長打率を足した打者の指標)で1・017をマークしており、デビューからメジャーでも十分に通用している。

 一方、課題は対左投手だ。打率は・167にとどまり、OPSは・508と低迷。長打の出にくいゴロの割合は65・2%にのぼる。大谷は対左投手について、「苦手意識はない。全体的なレベルだったり、何を投げてくるか分からなかったりするので」と分析。数字上では苦しい戦いが浮き彫りになっている。

 なぜ左右でこのような差が生まれるのか。考えられる理由の1つに「球速」がある。日本ハムに在籍していた昨季、大谷に投じられた直球の平均球速は対右が144・7キロ、対左が140・8キロだったが、今季は対右が151キロ、対左が151・7キロ。6・3キロ増の対右に比べ、対左は10・9キロもアップ。それだけ、メジャーの左投手のレベルが高いともいえる。

 もともと球速の上昇に反比例してコンタクト率は下がる傾向にあるが、実はこのような球速帯の左腕との対戦はほとんど経験がなかった。昨季、日本で最速150キロ以上を記録したパ・リーグの先発左腕は西武・菊池だけ。大谷には“未知の領域”に近かった。

 だが、悲観的なデータだけではない。そもそもは対左は得意だった。新人時代の13年こそ対左の打率は・176だが、そこから上昇し、15~17年の3年間は対右よりもいい打率を残してきた。

 すでに苦手克服の兆しも見え始めている。7月10日(同11日)のマリナーズ戦では救援左腕から22打席ぶりの安打となる左前適時打を放ち、13日のドジャース戦では代打でまたも左腕から左中間二塁打。14日の同戦ではド軍のベテラン左腕、リッチ・ヒル投手(38)のカーブを見極め、四球で出塁した。

 前半戦では相手先発が左腕の場合は先発メンバーから外れるケースもあったが、エ軍のソーシア監督は「ここ数打席は左腕に対して球が良く見えている」と評価。大谷も「常にどうやったらうまくなるか考えて、今の打席よりも次の打席がよくなるよう工夫してやりたい」と前を見据えている。

 ハイレベルなメジャーの左腕を攻略してしまえば、ますます手が付けられなくなる。後半戦の大谷が、どう対応していくのか、どんな成績を残すのか、注目が集まる。

★データスタジアム社・佐々木浩哉氏

 「スピードが全てではない」という言葉もありますが、2013~17年のNPBでは、球速が上がるほど打者がバットに当てる難度は確実に上昇しています。130キロ台のコンタクト率88.3%に対し、160キロ台は72.1%に下がるのです。

 打者の選球眼にも影響を与え、速いほどボールゾーンのスイング率が悪化します。バットに当てることができても、長打となりにくいゴロの打球がほとんど。130キロ台のゴロ率39.2%に対して、160キロ台は71.1%。バットに当てにいく意識が強まるからと考えられます。

★大谷シフト突破せよ!

 大谷の右方向へのゴロ率の高さから、各球団の対策として「大谷シフト」を敷くケースが増えている。MLBが公開するデータサイト「Baseball Savant」によると、大谷シフトの割合は41・7%で、左打者平均30・2%(右打者は8・5%)を大きく上回る。二塁手が通常の一、二塁間の深くを守り、遊撃手が二塁ベースの右に守る極端なシフトの網に引っかかることも多く、シフトなしの場合のwOBA(1打席あたりにどれだけ得点創出に貢献したか)は高水準の打率・442に対し、シフト時は・286と低下している。(データは前半戦終了時)

★大谷の前半戦VTR

 4月1日(日本時間2日)のアスレチックス戦でメジャー初登板し、6回3失点で初勝利を挙げた。その2日後にはインディアンス戦に「8番・DH」で出場し、3ランを放つなど、4打数3安打3打点の大活躍で本拠地デビューを果たした。その後も3試合連続本塁打を放つなど順調なスタートを切ったが、4月下旬に左足首捻挫、6月上旬には右肘の内側側副靱帯の損傷でDL入りし「PRP注射」と呼ばれる治療を受けた。7月3日(同4日)に打者として復帰し、8日(同9日)には初の代打本塁打。前半戦の登板成績は9試合に先発し、4勝1敗、防御率3.10。

★小早川毅彦の目

 大谷のパワーはメジャーの中でもトップクラス。日本でプレーしていたときから、あれだけのパワーなら十分やっていけると思っていたが、メジャーの強打者の中でも最上級といえる。

 課題は左投手への対応だが、打ち崩していくには慣れも必要だろう。相手の先発が左投手だと他の野手をDH起用して大谷は控えに回ることも多い。そのため場数を踏むにはもう少し時間が必要だが、能力を考えれば必ず打てるようになる。

 シフトを敷かれることも多いが、特に気にする必要はない。相手の出方によって自分を変えるメジャーリーガーはいない。自分の打撃に集中していれば、結果はおのずとついてくるはずだ。  (サンケイスポーツ専属評論家)

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