ヤクルト・山田の心つかんだ究極グラブ 社員1人のドナイヤは創業8年で売り上げ45倍超

 
ドナイヤの倉庫に入り、真剣な表情でグラブを選ぶ山田。そのフィット感にぞっこんの様子だ(提供写真)

 【業界の匠/ザ・ミュージアム】 各界屈指の技術を持つプロを取り上げる『業界の匠』の第3回は、野球のグラブ専門メーカー「ドナイヤ」の代表取締役社長・村田裕信氏(44)が登場。営業? モデルチェンジ? 「いたしません!!」。プロ野球選手にも既製品を「買ってもらう」という超強気の戦略を貫き、創業から売り上げが45倍以上となった今も社員は社長1人だ。人気テレビドラマ「ドクターX」の大門先生も顔負けの“一匹おおかみ”を貫く「マイスターX」の哲学に迫った。 (取材構成・佐藤春佳、赤尾裕希)

 昨年の12月初旬-。東大阪市のドナイヤ本社に姿を現したヤクルト・山田は、段ボール箱の中から次々とグラブを取り出し、左手にはめた。「今年は豊作やな!!」。革の質やフィット感などミクロの差にこだわり、約1時間かけて今季使用する2個を選び出した。

 これらのグラブは山田のために作ったものではない。すべて全国の小売店に卸し、一般に流通する「商品」だ。プロが使う究極のグラブをスポーツ店に-。逆にプロ野球選手にも無償提供はせず、既製品を購入してもらう。山田も2016年1月にアドバイザリー契約を結ぶ以前は、定価(現在は税抜き4万5000円~4万7000円)を払い愛用していた。

 『ドナイヤ』-。脱サラした村田氏が、関西弁を由来とする奇抜な名前のグラブ専門メーカーを起業したのは10年9月。口コミで評判は広がり、8年間で売り上げは初年度の45倍になった。「ありがたいことに常に予約オーバーの状態です」と村田社長。15年8月から現在まで、1品番も「在庫」があったためしがないという。

 会社立ち上げ当初、独自で金型から作ったグラブは投手用2品番、内野手用4品番、外野手用2品番。捕手や一塁手用などを徐々に開発し昨季から10品番に増えたが、モデルチェンジはしていない。「最初に完璧な型を作っているから、変える必要がないんです」。売り上げを増やすためのモデルチェンジはしない。グラブ専門メーカーの矜持(きょうじ)だ。

 「究極の一品」は、村田氏が米野球用具メーカー・ウィルソンなど、勤務経験のなかでほれ込んだ牛革が生命線だ。「しっとりしていて耐久性がある。業界で一番いいものを使っている」と高級素革を極秘ルートで確保し、鹿児島県内の工場で製作している。

 「型」にもこだわる。ウィルソン時代に担当していた池山隆寛氏(現楽天2軍監督)らトップ選手に意見を求める一方、高校球児にも聞き取り調査。「どんな人でも必ず3つに分類される」という“黄金比率”を見つけた。内野手用なら捕球する際の『ポケット』位置が、(1)網の下、(2)手のひら、(3)薬指の下、に分類される、といった具合。「最少品番で最強品番を作った」という。

 実は、ドナイヤのカタログには連絡先が掲載されていない。ホームページもなく、広告も打たない。「営業は会社立ち上げから5日間しかしていないですね」。販売店のつてをたどって来た依頼も、100社以上は断っている。大手スポーツチェーン店からの大量注文を受けない一方で、老夫婦が営む地方の小さなスポーツ店に卸すこともある。

 「チェーン店の店員はグラブの扱いが分からないことも多い。お金もうけしたいわけじゃない。この商品が本当にいいと思ってくれる人と仕事をしたいんです」

 “上から目線”に見える営業戦略だが、これがネットなどでの安売りを防ぎブランドイメージを守ることにつながっている。

 今後も社員を増やす予定はなく、事業拡大も「いたしません」。グラブ業界の一匹おおかみは、たたき上げのスキルと究極の一品で、野球人を魅了し続ける。

★山田、13年から“二人三脚”

 山田がドナイヤと出会ったのは2012年オフ。「使いやすさもあったし、新しい発見があった」とボールが手のひらに吸いつく感覚を初めて味わった。13年のシーズン中から同社製を愛用し、昨季からは形状、重さが同じ新品に替えた。“先代”は、お守り代わりとして遠征バッグに入れていたが、現在は兵庫の実家に飾られている。

 村田社長は「市販である、うちのグラブの耐久性を証明してくれたし、知名度も上げてくれた。本当に自信になります。彼が成長していく過程にドナイヤのグラブがあってうれしい。スターダムを駆け上がるところを近くで見られました」と感慨深げ。これからも山田とドナイヤは“二人三脚”で歩む。

★高校球児1番人気

 日本のプロ野球界は、各選手がメーカーと契約して用具提供を受けているが、その中でも、ドナイヤに興味を持ち自費で購入し使用している選手は何人もいる。アマチュアでも昨今、甲子園出場校には大手メーカーが競って新品の用具を無償提供しているが、「その中でもあえてボロボロのドナイヤを使っている選手を見るとうれしい」と村田社長。2016年には、人気ユーチューバーがSNSなどでアンケートをとった「球児が今気になっているグラブメーカー」のランキングで85社中1位に輝いている。

村田 裕信(むらた・ひろのぶ)

 1973(昭和48)年1月20日生まれ、44歳。東大阪市出身。大阪産業大卒業後、関電興業(現関電プラント)に入社も25歳で退社し、渡豪。飲食店に務めながら英語を学び、西豪州大の留学生となる。1年間の“武者修行”を終え、帰国。米野球用具メーカー、ウィルソンに入社した。2010年9月に野球グラブ専門の個人会社ドナイヤを設立。16年1月、ヤクルト・山田哲人内野手とアドバイザリー契約。同年7月に株式会社へ移行した。

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