「三木と申します」
ベクターブルーイングのブルワー(醸造家)、三木敬介さんがそう言って人懐こい笑顔で名刺を差し出してきたので、心の中でニヤリとした。ベクターブルーイングが造ったビールに「“みき”と申します」という銘柄があったからだ。
コロナ前、東京・新宿御苑にあるベクタービア新宿御苑前駅店で飲んだことがある。僕のメモには「苦味の強いホッピーなビール」とある。味そのものは忘れてしまったが、ジャンルはウエストコーストIPAなのだろう。
実は“みき”を女性とイメージして飲んでいた。美紀さんだか美樹さんだか未希さんだか美貴さんだか美紀さんだかのブルワーが醸造したのだろうと。ところが、目の前でニコニコしているのは、美紀さんでも美樹さんでも未希さんでも美貴さんでも美紀さんでもなく、名字が三木さんの大男。
聞いてみると、大学時代はラグビーに打ち込んでいた三木敬介さんが、自身初のオリジナルレシピで造ったビールが「“みき”と申します」だった。
「初のレシピだったので、自分の好きなものを造りたいなという思いでした。当時はIPAが好きだったので、特に迷うことなくIPAにしました。すごく強いこだわりがあったというよりは、とにかくオリジナルレシピを作れる喜びが強かったですね」