両腕を伸ばし、体は棒のごとく一直線。スピードに乗ったまま滑り込む。ヘッドスライディングは、巨人・重信慎之介外野手(30)の代名詞になった。セオリーとされる足から滑るスライディングをしていた重信は、ある試合を境に今のスタイルに変えた。
2019年8月24日のDeNA戦(東京ドーム)。石川慎吾が延長十一回に劇的なサヨナラ本塁打を放ち、優勝マジック「20」が点灯した一戦だった。途中出場した重信は十一回に価値ある二盗(二塁への盗塁)に成功。このとき初めて二塁にヘッドスライディングした。当時のチームでは、故障を防ぐために原則として足から滑り込むことが推奨されていたが、重信は決めていた。
「人それぞれ違うと思うんですが、僕の場合は手から滑った方が早いという感覚があったんです」
その頃、代走でここ一番の盗塁に失敗することもあった韋駄天は、練習中に「手から」と「足から」のそれぞれのスライディングのタイムを計測した。わずか0コンマ1秒にも満たない数字ではあったが、何度やっても手から滑り込んだ方が早いことが数字にも表れたという。「早い方法を使わずに失敗して2軍に落ちるより、後悔しないやり方をしよう」。足で生きる男の覚悟だった。
その日を境に、〝ヘッスラ〟が基本になった。それまでの盗塁成功率・707(41分の29)に対し、変更後は・833(36分の30)と飛躍的に改善。代走の切り札として6盗塁をマークしている今季は一度も失敗していない。
手から滑り込んだ場合、守備側の送球がそれた際などに手指をスパイクで踏まれるリスクがあるのも事実。一方で、近年は鍋つかみのような見た目の走塁用手袋「スライディングミット」が開発され、手を保護できるようになった。また、練習から何度も繰り返すことで体に負担をかけるという懸念には、重信は上半身だけの練習用プロテクターを特注することで対処した。
「手から滑り込むのがいい、というわけではなくて、僕にとってはこれが合っているということだと思います」と重信。メジャーリーグを発端に、近年はヘッスラが増加傾向にある。セオリーに固執しないことに、進化のヒントは潜んでいる。(谷川直之)