■6月10日 ロダンといえば「近代彫刻の父」と呼ばれる19世紀フランスの彫刻家だが、競馬ファンにとってその名は一頭の競走馬に取って代わった。「考える人」で知られる芸術家が由来のオーギュストロダンが先週末、近代競馬発祥の地・英国で3歳最高峰の一戦である英ダービーを勝ったからだ。
父は日本で生まれた希代の名馬ディープインパクト。その子供が本場の「ザ・ダービー」を制したのは初めて。しかも2020年に生まれた、12頭しかいない最後の世代の産駒から英ダービー馬が誕生した。父の主戦を務めた武豊騎手が「数少ない最終世代で勝つんだからすごいね。さすが」と感嘆するのも当然か。歴史的快挙により、ディープはその産駒全13世代でクラシック制覇を達成。死してなお評価を高めたことに、その偉大さを再認識した。
オーギュストロダンは、20年生まれのうち、ディープを種付けされた母馬が母国(海外)に戻って産んだ6頭の中の1頭。かつて日本は「名馬の墓場」と揶揄(やゆ)された。欧米から名馬が集まっても、その血は世界の競馬に戻ることなく袋小路に入って消えてしまう-と。海外から日本競走馬の血が求められるまでになったことが誇らしい。
今年の英ダービー馬や18年英クラシックホース(2000ギニー勝ち)のサクソンウォリアーによって、ディープの血は欧州でも枝葉を広げ世界に根付くだろう。国内では産駒のコントレイル(わずか1票届かず顕彰馬を落選したのは残念)、キズナが頑張るに違いない。さらに日本にはディープの全兄を父に持つキタサンブラックがいる。産駒が大活躍する同馬の血を求め、多くの繁殖牝馬が海を渡って来る日は近いはずだ。(鈴木学)