四回、2点適時打を放った阪神の前川右京=エスコンフィールド北海道(撮影・松永渉平) (日本生命セ・パ交流戦、日本ハム4―3阪神、2回戦、日本ハム2勝、10日、エスコン)華々しくプロ生活を飾る一打が、一、二塁間を抜けていく。阪神・前川右京外野手(20)が充実の表情とともに、一塁ベース上で右手を突き挙げた。記念のプロ初打点を挙げた虎の希望は、敗戦の悔しさをにじませながら振り返った。
「今までなかなかチャンスで何もできていなかったので、よかったなと思います」
1―3の四回。ノイジー、大山の連打などで1死二、三塁の好機が巡った。伊藤の5球目、甘く入ったストレートを体に巻きつくようなフルスイングで引っ張る。打球は一、二塁間を破り、走者2人が生還する同点の右前適時打。攻めあぐねていたWBC日本代表メンバーの伊藤から貴重な一打を放った。前日9日にもマルチ安打を放ち、零封負けに終わった打線の中で存在感を放った若武者が、この日も劣勢を打開する一打。22打席目で初の打点を記録した。
故障で1軍キャンプを目前で逃した今年2月。2軍キャンプ地の具志川で、誰より遅くまで残って練習した。バットを振り込み、真っ赤に腫れた両手が震える。それでも「やるべきことをちゃんと終えないと。まだまだです」と言い残し、最後にバスに乗り込んだ。積み重ねた努力は、出場4試合連続安打の結果に表れた。
チームは今季初の3連敗。自身は九回2死で一ゴロに倒れ、最後の打者になった。5月30日にプロ入り後初の1軍昇格を果たし、12日間で初出場と初安打に加え、初打点も記録。もう〝お客さん〟ではなく、勝敗を懸けて戦う1軍の戦力だというプライドも短い言葉に込め、逆襲を誓った。
「あした、また頑張ります」
固い表情のまま、球場を後にした。前川がかみしめた悔しさは必ず、未来の虎の白星につながる。(邨田直人)