息子(黒川想矢㊧)の異変に気づいて行動した母(安藤サクラ㊨)は、はたしてモンスターペアレントだったのか?©2023「怪物」製作委員会 是枝裕和監督最新作は、映画「花束みたいな恋をした」の坂元裕二によるオリジナル脚本で、音楽が「ラストエンペラー」で日本人初のアカデミー作曲賞を受賞した坂本龍一さん。クリエイターの〝怪物〟が合体したら、そら、魅せます。
第76回カンヌ国際映画祭で「パーフェクトデイズ」(ヴィム・ベンダース監督)の役所広司が男優賞を受賞。「銀河鉄道の父」(公開中)でも共演の菅田将暉、森七菜を刺激するお芝居を見せつけてる名優ゆえ、遅すぎる受賞かもしれません。
本作も脚本賞と、LGBTなどを扱った作品に与えられるクィア・パルム賞の2冠を達成。「万引き家族」(2018年)で最高賞(パルムドール)に輝いてる是枝監督は、すっかりカンヌの常連です。
お話の発端は、湖のある街で起きた駅前の雑居ビル火災。高台の一軒家からシングルマザー(安藤サクラ)が見下ろしてると、11歳の1人息子(黒川想矢)が突然、「ブタの脳を移植した人間は…人間? ブタ?」と聞いてくる。
その後もスニーカーが片方なくなってたり、洗おうとした水筒から土が出てきたりする息子に戸惑う母。ある夜、帰宅せず、山中で見つけて連れ帰ろうとしたら、助手席から飛び降りた。
幸い軽傷やったものの「僕の脳はブタの脳と入れ替わってる!」と絶叫する息子を問い詰めたら「担任に言われた」。
怒り心頭の母は学校に乗り込むけど、孫を事故で亡くしたばかりの校長(田中裕子)はどこか上の空。燃えた雑居ビルのガールズバーに通ってたとウワサされる担任(永山瑛太)も渋々謝罪しつつ、途中でアメを食べ始め、薄ら笑いを浮かべて「息子さん、イジメしてますよ」とささやく。
-と書けば、明らかに担任はあぶないヤツ。実際、息子がイジメたとされる同級生(柊木陽太)は「先生が怖い」と証言したから、ことは新聞沙汰になってしまいます。
ところが-。お話は再び雑居ビル火災の夜へ。当時、駅前で恋人(高畑充希)とイチャついてた担任目線で先ほどまでの〝事件〟が描かれていくと、担任はやさしい好青年やし、校内では母親がモンスター・ペアレント扱いされとる。
再度、ところが-。今度は息子を軸に、同級生もからめた目線で〝事件〟が再現されていくと本当の〝怪物〟は…。
というワケで、是枝&坂元が採ったのは、映画ファンならおなじみの黒澤明監督「羅生門」スタイル。それぞれの目線の中では安藤サクラも永山瑛太も田中裕子も、み~んな〝怪物〟に思えてきます。とりわけ、瑛太のキャラクターは、見終わった瞬間に巻き戻して母親目線パートを再確認したくなるほど。
なぜにカンヌでLGBT関連の賞を受賞したかは、終盤でご確認ください。教授のピアノの旋律が最もしっくりなじみ、改めて〝怪物〟やったなぁ…と悔やまれました。(笹井弘順)