警察官が銃撃されたと思われるパトカーにはブルーシートがかけられていた=26日午前、長野県中野市(松井英幸撮影) ■5月29日 「兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川…」。日本人なら誰でも一度は口ずさんだであろう童謡『故郷(ふるさと)』は明治生まれの国文学者で作詞家の高野辰之が作詞した。故郷信州の豊かな自然と情緒が、それぞれの故郷を思う人々の心にしみる名曲で他にも「春が来た」「春の小川」など多くの童謡を残している。
高野は長野県永江村、今の中野市に生まれ子供の頃は農業を手伝っていたという。長野市から約25キロ、車で約40分の中野市は山に囲まれた田園地帯が広がり『故郷』の原風景そのもの。のどかな地域にはまるで場違いな惨劇が起きるとは驚天動地ではあった。
女性や警察官ら4人が殺害され、警察官1人に対する殺人容疑で青木政憲容疑者(31)が逮捕された。女性が刃物で刺されたとの通報でパトカーで駆けつけた2人が猟銃で撃たれた。防弾チョッキをつけていればとの声も聞くが、その時点で容疑者の銃器の所持は不明。いきなり発砲という荒唐無稽な状況は想像の外だったとしても無理ない。
女性や警察官を平然と殺害する一方で自宅に立てこもった際、母親やおばには銃を向けず逃した。市議会議長だった父親との電話が投降につながったそうだが、父親はそのときどこにいたのか。屋外に残され死亡したもう1人の女性には何とか近づく方法はなかったのか。つぶさに報道を見ても解せないことが多い。
「孤立していると悪口を言われた」と容疑者。一方的な逆恨みか。極刑は当然と思われるが、この先鑑定留置などを経て長い裁判が予想される。亡くなった4人のご冥福を『故郷』の「…いつの日にか帰らん 山は青き故郷 水は清き故郷」の歌詞とともに祈る。(今村忠)