鋭い出足で貴景勝(左)を寄り切る霧馬山。大関昇進の目安に到達する大きな白星を手にした(撮影・佐藤徳昭) 大相撲夏場所12日目(25日、両国国技館)大関昇進に挑む関脇霧馬山(27)は大関貴景勝(26)を寄り切って10勝目を挙げた。昇進の目安とされる直近3場所の合計が「33勝」となり、〝当確〟ラインに到達した。かど番の貴景勝は7勝5敗。横綱照ノ富士(31)は関脇若元春(29)を寄り倒して1敗を堅持し、単独首位に立った。元大関の平幕朝乃山(29)は関脇大栄翔(29)に押し出され、2敗に後退。照ノ富士を1差で霧馬山と朝乃山が追う。
3秒、7秒、10秒が過ぎる。行司の軍配が返って立ち合うまで、霧馬山は視線を外さなかった。立ったまま大関とにらみ合い。少しも位負けしなかった。
「自分の相撲を取り切ろうと…。思い切り当たろうと決めていた」
鋭く踏み込んだ。貴景勝に当たり負けせず、右を差す。左からおっつけながら電車道で寄り切り、土俵上で大きく息を吐いた。大関昇進の目安は「直近3場所を三役で33勝以上」。10勝目を挙げて〝当確〟ラインには到達した。
前半戦では取り直しも含めて、2番続けて立ち合いの変化もあった。昇進を預かる審判部の佐渡ケ嶽部長(元関脇琴ノ若)は場所前から数字だけでなく相撲内容も大切としており、この日も「あと3日あるので、千秋楽までしっかり見る」とした。
それでも、「これで33勝ですか」と自ら切り出し、「今日が一番いい内容。波に乗ってきた感じで、本来の霧馬山らしい相撲が取れてきている」と好印象を語った。優勝争いに絡み、大関を倒して2桁白星を挙げた存在感。1月の初場所から125年ぶりの1横綱1大関となり、バランスを欠いた番付を解消する状況も強い追い風となる。
「残り3日間。一日一番、しっかり相撲を取りたい」。霧馬山も白星の上積みに気合を入れる。
部屋関係者によると、母国モンゴルの遊牧民一族の霧馬山は信心を大切にしており、神棚には先祖の故郷、内モンゴル自治区の「オボー」の写真をまつって手を合わせているという。オボーは遊牧民が山や峠の聖域に土や石を円錐(えんすい)形に積みあげたもの。基壇の上部に木枝を差し、中心にはやりなどを立て、そこに神が下りるという。昇進の〝願掛け〟が、かなうときがきた。(奥村展也)