気になるニュースを目にした。
「国際統括団体のワールドラグビー(WR)はボールの位置を正確に把握して審判の判定を補助する新技術を、6月のU-20(20歳以下)世界選手権(南アフリカ)で試験実施すると発表した」というものだ。
これは「スマートボール」と呼ばれる、データ通信ができる装置を内蔵したボールを使い、グラウンド周囲に設置するビーコン(電波受発信器)とデータをやりとりし、ボールがゴールラインに届いたかどうか、球を前方に投げていたか、スローイングがまっすぐだったかなどの判定に役立てるのだという。
WRの発表によると、この技術は「1秒間に20回までボールの位置を特定し、全てのキック、パス、スローのフィードバックを即時に提供する」というすぐれもの。WRは「審判が正確な判断に素早く到達できるようになる」と鼻息を荒くしているようだが、筆者が気になったのが、「スローフォワードの定義」を正しく見ることができるのかということだ。
「スローフォワード」とはボールを前に投げることで、ラグビーではしばしばみられる反則。しかし、ボールが前方に飛んだ全てが反則になるわけではない。定義は「ボールを離した瞬間に、手または腕が前方へ移動している」なのだ。
例えば、トップスピードで走っている選手が自身の真横(これはスローフォワードにならない)に投げた場合、ボールの軌道はほぼ100%、前方へ飛んでいる。慣性の法則が働くためだ。「スマートボール」がボールの軌道だけで判定してしまうと、これらは全てスローフォワードになってしまう。ボールがどれだけ慣性の影響を受けるのか、選手の体感では分からない。投げたパスが何でもかんでもスローフォワードと判定されると、ラグビーにならなくなってしまう。
ただ、聞いた話によると、選手がボールをキャッチしてからパスするまでの時間も測定できるというから、ボールを受けてから投げるまでの手の動きのベクトルも測定できるのかもしれない。それが重要なのだ。
国内のチーム関係者によると、抽出されるデータは膨大なものになるという。キックでいえば高さやボールの回転数、ボールスピードなどまで瞬時に分かるのだそうだ。これらの何がトレーニングに役立つのか。先の関係者は「分析担当に物理学の素養が必要になるときがくるかもしれない」ともいう。昭和の時代のラグビーには「おおざっぱなスポーツ」というイメージがあったが、いやはや、大変な時代になりそうだ。(田中浩)