たくさんの期待と重圧を背負いながら、守った。第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で3大会ぶりの世界一に輝いた日本代表。その中で、山田哲人内野手(30)は準決勝のメキシコ戦、決勝の米国戦を含む4試合で二塁手として先発出場した。「負けたら終わり」の緊迫した試合が続く中、堅実な守りで無失策。慣れない仕様の球にも順応し、むしろ安心感すら覚える守備だった。
ただ、極限の緊張感と戦っていたのは確かだ。26日に2軍練習に合流した際には、こう振り返っていた。
「オリンピックとかプレミア12とか、(国際大会W)たくさん経験させていただきましたけど、あまり守備に就くことがなかった。基本的にファーストを少し守ったり、オリンピックのときも1試合セカンドを守ったぐらいとかだったので。今回セカンドを何試合か守らせてもらったんですけど、やっぱり守備の場面の方が緊張するなというか。そういうのを感じましたね」
これまでは、広島・菊池が日本代表の常連だったため、出場は「DH」が多かった。滑りやすいと言われる球を扱う上に、失策をしたら流れが変わり敗退につながるという状況。多くの国際大会に出場し「打」で結果を残してきた山田にとって、心のどこかに「守」への不安はあったはずだ。
守備練習に臨む山田哲人だから、ひたすらノックを受けた。愛用するドナイヤ社製のグラブは今シーズン用の新しいものではなく、昨季使用し革がなじんているものを採用。宮崎合宿では、志願して連日特守を受けた。それだけ必死だった。
「城石さん(内野守備・走塁兼作戦コーチ)にお願いしました。毎日『もういいよ』と言われていたけど、やっぱり守備練習はしっかりやっておきたかった」
決して余裕があったわけではない。打撃では、フォームを試行錯誤しながら連日の打ち込み。理想の形を追い求めていた。その中で、守備にもたっぷりと時間を注いだ。「脚を使うからバッティングにもつながるし、プラスの効果しかないなと思っていたから。全体につながるという意味でも(特守)やっていたかな」。侍の一員として全ての面で勝利に貢献するため、ひたすら球をグラブに収めた。
二塁守備で優勝に貢献した山田哲人大事な場面で成果が出た。決勝の米国戦の九回無死一塁。1番・ベッツの打球を難なく捕球し、二塁ベースに入った遊撃手・源田(西武)にトス。併殺を完成させ、直後に大谷(エンゼルス)がトラウト(同)との世紀の対決を空振り三振で締めて世界一の栄冠をつかんだ。
「あそこはイージーバウンドだったのでよかったんですけど、ちょっとでも横にそれていたらどうなっていたかわからないですからね。それぐらい緊張していました。手じゃなくて、体ごとセカンドベースに行きましたね。体ごとトスしました」
笑いながら振り返ったが、その緊張感は計り知れない。もし、失策していたら、トスがそれていたら…。無死一、二塁で打席にはトラウト。たとえ三振でも、3、4番につながるという状況だった。だからこそ、あの併殺打は大きかった。無難に見えた。いや、見せた。そこには、確かに山田の努力があった。
昨季、二塁手ではリーグトップタイの守備率・995を記録したにも関わらず、27票差でゴールデングラブ賞を逃した。またも「広島・菊池」に阻まれた。魅せるプレーも求めながら、堅実な守備で安心感を与える。今度は、再び日本のプロ野球でその鉄壁の守備を見せてほしい。その1アウト、1アウトが、スワローズをV3へ導くはずだ。(赤尾裕希)