東北・金子和志(背中)が山梨学院のエラーで出塁。ペッパーミルポーズで喜ぶ金子とベンチの選手ら 今春のセンバツ。野球人口の減少を危惧し、現在の高校野球界にアンチテーゼを唱える2人の監督がいた。
まずは東北(宮城)・佐藤洋(ひろし)監督(60)だ。元巨人内野手で昨年8月に母校の監督に就任すると、自らを「ヒロシさん」と呼ばせ、髪形の自由やノーサイン野球を打ち出して選手の自立と成長を促してきた。今大会で物議を醸した「ペッパーミル・パフォーマンス」について「高野連にケンカを売ることになるかもしれないが、もう少し自由に野球を楽しむということを考えてもらいたい」と発言。自らの指導法についても「例えば選手に練習の目安やヒントを与えると、結局は指示になる。そして、みんな同じような投げ方、打ち方になる。それでも実際、高校野球は勝てるんですよ。自分で考えて自分で行動するというのは、野球人が最も苦手な部分。そこに一石を投じたい」と力説した。
もう一人は慶応(神奈川)・森林貴彦監督(49)。慶応では「エンジョイ・ベースボール」を掲げ、東北高同様に髪形は自由。アンガーコントロールの一環として、「大きな声を出したくないから」と練習中は拡声器で選手に声を掛ける。また、脱・勝利至上主義の観点から高校野球のリーグ戦「Liga Agresiva」の立ち上げにも携わった。「高校球界は今も〝制服〟でがんじがらめの世界。少しでも〝私服〟にしたい。強制は生徒から考える力を奪う」と話す。
WBCで世界一奪回。米国で胴上げされて10度宙を舞った侍ジャパン・栗山英樹監督(61)も、エースだった創価高(東京)時代には別の意味で〝宙を舞った〟という話を以前に聞いた。時は1978年、高2の8月。横浜高との練習試合に先発し、大量得点を奪われた。それでも、前年夏の甲子園で「バンビ」の愛称で人気を博し、準優勝した東邦(愛知)の1年生エース・坂本佳一のブラウン管越しの姿を思い出し、「バンビは笑顔でやっていたからね。そういう時代なんだなと思って…。あの時もあんまり悔しがってもいけないと思って、マウンドで笑っていたんだ」。しかし、試合を終えて自校に戻ると、監督から「負けて、何笑ってんだよっ!」とぶん殴られた。その瞬間、スローモーションのように体が宙に浮いて、部室の扉まで吹っ飛んだ記憶が残っているという。
東京の、とある監督はこう嘆く。「指導者の暴力、暴言、パワハラ。用具にもお金がかかる。また(練習試合への送迎など)保護者への協力の強要…。子供も親も、選ばないスポーツの一つに野球がなってしまっている」-。旧態依然が代名詞の世界であってはならない。(東山貴実)