ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本が世界一の座を奪還した。準決勝のメキシコ戦での村上宗隆の逆転サヨナラ打、米国との決勝で勝利を決めた瞬間の大谷翔平のグラブ投げと帽子飛ばしなど、胸を熱くする感動のシーンを、何度もかみしめたくなる(個人的には村上の打球が中越えしたときの周東佑京のすさまじいランニングも)。
日本に敗れた直後、メキシコのベンジー・ギル監督は「日本が決勝に進出したが、今夜は野球界が勝利した」と語った。スリリングで息詰まる熱戦、1球1球に固唾をのむようなしびれる展開が多くのファンを魅了した。
米国では野球(MLB)、アメリカンフットボール(NFL)、バスケットボール(NBA)、アイスホッケー(NHL)が4大スポーツだが、かつてはダントツだった野球人気がこのごろは衰え、今ではNFL、NBA、NHLの後塵(こうじん)を拝している。新興のメジャーリーグ・サッカー(MLS)にも猛烈に追い上げられている。
そんな背景もあり、野球人気の復活、競技のグローバル化を目指してMLBとMLB選手会が立ち上げたのがWBCだった。5回目の今大会、チェコやオーストラリア、イタリアなどが気を吐いた。彼らのグッドルーザーぶりも目を引いた。米国ラウンドでは、日本の鳴り物入りの応援に、手拍子や足踏みしながらノリノリで楽しむ地元ファンもいた。
こんな光景を、どこかで見たような気がした。日本開催の2019年ラグビーW杯だった。日本のファンは外国ファンのラグビーの楽しみ方を知り、外国ファンは日本人が重きを置く礼儀、礼節の部分に注目してリスペクトしてくれた。違う文化を楽しみ、尊重することでハッピーな時間を共有する。これこそ「ラグビー界の勝利」だった。WBCで再び味わえたこの思いは「スポーツの勝利」と言ってもいいだろう。
ところで、余談ながらメキシコ戦の逆転勝利の余韻さめやらぬその日の夕方、ラグビー関係の会合に出た。話はラグビーよりWBCで持ち切り。そこで、とある先輩の発言にみんなずっこけた。
「ねえ、ヌートバーって米国籍でしょ。なんで日本代表で出られるの?」
みなさんご存じのように、ヌートバーの母が日本人ということで、出自の条件がクリアするからなのだが、その先達としてあるのがラグビーだ。当初はホームネーション(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの英国・アイルランド系の協会)の間での取り決めだったようだが、祖父母(ときには曾祖父母)にさかのぼって、その国の出自があれば代表になれるということだ。2019年W杯の日本代表では、31人中15人が日本以外の出自を持つ(日本に国籍変更した者も含む)選手だった。
そんなこともあり、その先輩が「ラグビーの人間がそんなこと言ってちゃダメでしょ」とたしなめられたのは、言うまでもない。(田中浩)