私は常々、自身の役割を政治家と国民の間をつなぐ「通訳」と説明している。本来、政治家は国民に丁寧に説明して理解を求めることが大切。しかし、わざわざ難しい言葉を使い、理解できないたとえ話でけむに巻いてしまう。そのため、われわれのような存在も意義があると考えている。
国会では、岸田文雄首相がウクライナを訪問した際に、地元広島の必勝祈願の「しゃもじ」をゼレンスキー大統領に贈った問題が議論になった。日清・日露戦争の時代に「敵を召し(飯)取る」ことから、しゃもじを縁起物として扱うようになったと言われている。とはいえ、現代の戦地に手土産として贈るのは、やはり違和感がある。
岸田首相は「祖国や自由のために戦う努力に敬意を表したい」などと説明した。首相自身は、本当にしゃもじが最適と考えたのか。首相周辺で止める人はいなかったのか。「外交の慣例で地元名産のお土産をよく持っていく」とも答弁した。確かにそうした側面はあるが、生死をかけた戦いをしている国に持っていくには、お気楽過ぎるだろう。この行動の真意を〝通訳〟するのは、なかなか難しい。
岸田首相がウクライナ訪問を果たしたことは評価すべきだろう。先進7カ国(G7)の首脳で同国を訪問していないのは日本だけだった。5月にG7首脳会議(広島サミット)を控えて、議長国としてサミットの進行を円滑に運ぶためにも訪問したいという執念もあったはず。一時低迷した支持率も回復基調にあった。それだけに、「しゃもじ」は残念だ。=毎週月曜掲載