2022年のW杯カタール大会後、初めてとなる国際親善試合ウルグアイ戦が24日に行われ、日本は1-1で引き分けた。3年後の米国、カナダ、メキシコの北米3カ国での共催W杯に向けた“第2次森保体制”の初陣で、指揮官は世代交代を敢行。新戦力のパフォーマンスに不満の声も出ている中で、元J1清水監督のズドラヴコ・ゼムノビッチ氏(68)はサンケイスポーツの取材に応じ、「世代交代には我慢が必要」と説明した。
伊藤洋輝森保監督の“第2次体制”が船出した。結果は1-1だったが、船はまだ出港したばかり。指揮官の考えが明確にみえて私は納得している。最初のメンバー発表で注目したのはGKの川島永嗣、権田修一、DFの吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹がいなかったこと。これは「世代交代」を意味しているが、多くの場合は数人のベテランを残して徐々に若手と交代していくもの。森保監督は大胆にも最初の試合で招集せずに、若手にプレーの場を与え実戦を積ませることを選択した。寂しいことだが、ベテランはいつかは代表チームを去る。指揮官は苦しみながらもその決断を早期に行った。私はこれでよかったと思う。
当面の課題は「ポスト長友・酒井」の両サイドバック(SB)の発掘だろう。今回は長友のいた左サイドバックの位置に伊藤洋輝、酒井のいた右に菅原由勢が入った。プレーの内容をみると、やはり物足りなさは否めない。批判する声もあるが、私はそこは長い目でみてもらいたいと考えている。代表チームは深みのあるワインのように熟成が必要とされる。“第2次体制”も根幹は変らないものの、監督はW杯カタール大会と別のチームを作ろうとしている。その最初の工程。この段階でワインの味にケチをつけるのはナンセンスだ。
もちろん日本代表にきた以上は伊藤、菅原には高い質のプレーが要求される。伊藤の同サイドには、いまや世界が注目しているドリブラー三笘薫がいる。三笘の持ち味を生かすために何をすべきかを考えなければいけない。「三笘や堂安への縦パスが少ない」という声もあるが、それも一理ある。伊藤、菅原がボールを持っているということは、同サイドに相手が寄ってきているということ。ここで三笘、堂安にパスを出そうとしてもスペースがない場合も多い。三笘らのよさを生かすならば、相手を引きつけてスペースのある逆サイドへと展開する。伊藤なら右の堂安へ。菅原なら左の三笘へ。バックパスではく、そのような思い切り、工夫も必要だ。あとは早めにボランチにボールを預け、そこから展開を図る。あるいは攻撃参加してDFの注意を引いて三笘、堂安をサポートする。それらの判断の早さが経験として足りなかった。
長友や酒井のように、周囲に合わせてプレーする。これは一朝一夕でできるものではない。もちろん伊藤、菅原以外にもSBの候補がいるが、誰を試すにしても連係を深めるには時間が必要だ。そこは我慢して起用し続ける必要がある。4年後にどのようなワインになるのか。カタールでは芳醇なワインを味合わせてくれただけに、いまから楽しみだ。(元J1清水監督)
▼ドラヴコ・ゼムノビッチ(Zdravko Zemunovic) 1954年3月26日生まれ、68歳。ユーゴスラビア(現セルビア)出身。現役時代は国内リーグなどでプレー。引退後はオシム元日本代表監督が当時指揮を執っていたチームの2軍監督などを歴任し、95年に初来日。2000年12月に清水の監督に就任すると同年度の天皇杯準優勝し、翌年度の同大会で優勝を飾る。ゼロックス・スーパーカップも2度制覇。戸田和幸をボランチにコンバートして才能を見いだすなど、日本代表4選手を輩出。千葉県協会テクニカルアドバイザー、VONDS市原(関東1部)監督、J3岐阜、讃岐監督などを歴任し、現在は兵庫・相生学院高を指導。