米国との決勝戦の七回、力の投球をする侍ジャパン・大勢 大舞台になればなるほど心が燃え上がる。強心臓ぶりはメジャーのスーパースターを相手にしても健在だった。WBCで世界に足跡を刻んだ巨人・大勢投手(23)は、極限の集中状態にあった。
「あまり緊張はしていなかったですね。投げている最中は分からなかったというか、対戦が終わってから『トラウト選手やったんだ』という感じでした」
そう振り返ったのは、21日(日本時間22日)の米国との決勝。3-1の七回に5番手で登板し、四球と安打で無死一、二塁とされたところで大リーグ通算350本塁打のトラウトとの勝負を迎えた。強気に150キロ超の直球で押して右飛に仕留め、後続を併殺に打ち取って無得点で切り抜けた。
昨季は1年目にして巨人の抑えを託され、新人最多に並ぶ37セーブを挙げた。折に触れ、繰り返す言葉は「見ている人がワクワクするような投球をしたい」。ラテン系の移民が多いマイアミでの決勝は、「USA」コールが響く異様な雰囲気に包まれた。それでも右腕は意に介さず、強力な米国打線に真っ向勝負を挑んだ。
兵庫・西脇工高から関西国際大を経てプロ入り。入団前に目立った実績がなく、ドラフト1位指名された当初、ネット上で懐疑的な意見を目にした。「『誰だ?』みたいな。見方を変えていくのは僕次第。そういう気持ちで頑張っていこう」と原動力に変え、2年目で日の丸を背負うまでに成長した。
巨人で担当した岸スカウトは「大勢は口癖のように言うんです。『目の前で起きていることには全て意味がある。だからプラスに変えていきます』って。それをルーキーの年に言えたのはすごい」と実感を込める。
ドラフト会議前の大勢との面談では、設定する目標の高さに驚いた。右腕が憧れの選手として名前を挙げたのは、メジャー屈指の好投手たち。サイ・ヤング賞を誇るデグロムと最多セーブの実績があるディアスだった。
飽くなき向上心を持ち、逆境を乗り越えるたびに強くなってきた23歳。WBCで並みいる打者を抑えても満足感はなかった。「ハイレベルな選手たちと野球をさせてもらって、自分自身の足りない部分が分かった。もっと野球がうまくなりたい」。世界の猛者との対決が、燃える闘志に薪をくべた。(鈴木智紘)