韓国の尹錫悦大統領の来日が実現した。今月、韓国政府が元徴用工訴訟問題の解決策を発表して間髪入れずという〝突然〟のタイミング。銀座でのはしご会食、尹大統領希望のオムライス外交で親密さを強調する演出もあった。
再開が決まった首脳同士の相互訪問「シャトル外交」は11年以上途絶えており、両国間の壁は相当高かった。1965年の日韓基本条約と請求権協定で、第二次大戦に関する賠償などは元徴用工問題も含め解決済みとされた。だが、国民感情の面では、なかなか雪解けとはいかなかった。ようやく98年の日韓共同宣言で、新たな関係構築の推進を確認した。
当時の金大中大統領周辺から日本の有名ロックバンドと韓国歌手が相互訪問して歌うという文化交流企画の相談が私にあり、実現に向けて動いたことがある。韓国で日本の歌手が日本語で歌うこと自体、それまで禁止されていた。その企画自体はうまくいかなかったようだが、その後の韓流ブームなどにつながった。
今回の首脳会談を機に冷え切っていた関係は改善へ向かいそうだが、背景には北朝鮮情勢を見据えた軍事情報の共有、半導体流通などを改善する必要性を優先させた面もある。当然ながら、一連の流れには米国の存在がある。尹大統領は4月下旬に米国訪問の日程が組まれ、日韓関係修復という〝お土産〟を持っていく形だ。
韓国では政権交代により日本に対する姿勢ががらりと変わる恐れもあり、安心はできない。今回は韓国側がやや一方的に譲歩したように見え、その反動に不安も残る。今後の日本の役割は重要だ。市民レベルで進んでいる文化交流のように、政治的にも親密な関係に発展することを願う。(政治評論家)=毎週月曜掲載