ボクシングなど格闘技で「クリンチ」という用語がある。この言葉、政界用語でもある。意味は「相手の体に抱きつくなどして相手の動きや攻撃を止める技術」。これ、岸田文雄首相の得意技のようだ。
今国会で最近、「リスキリング」を巡り岸田首相が釈明に追われた。スキルを身につけるための「学び直し」の意味だが、岸田首相が産休・育休中の女性へのリスキリング支援を表明したところ、「育児中に学び直しの暇はない」などと批判が殺到。野党側の追及を受け、「(育児中の)本人が希望すれば、後押しするということ」などと説明し直した。
これが安倍晋三元首相であれば、野党の批判に語気を強めて反論などしたかもしれない。岸田首相自身の柔和な語り口もあるが「私にも3人の子供がいる」と野党側の言い分を理解できているような姿勢を示し、自説にこだわることなく議論を収めてしまった。
これも一種のクリンチ戦法で、相手の主張に寄り添うようにして攻撃を止めてしまった。これでリスキリングに関する議論は、深まることなく終わってしまうだろう。
岸田内閣発足直後の一昨年の臨時国会で、岸田首相は「検討する」を多用して問題を先送り。続く昨年の通常国会では61本上程した法案が全て成立して成立率100%、秋の臨時国会も22本上程して21本成立。野党がだらしないのか、野党の反対を受けない法案しか上程しないのか。いずれにしても、岸田首相のクリンチ作戦が奏功しているようにしかみえない。
国会は議論の場。防衛費増額と財源としての増税、少子化対策など大きな課題が山積している。有意義な議論を積み上げていけるのか。クリンチ以前に判定勝ちばかりでは困りものだ。(政治評論家)=毎週日曜掲載
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