成長の鍵は、ホテルの1室にあった。ヤクルトの沖縄・春季キャンプがスタート。今年も投手陣には、〝ある〟時間が設けられる。
練習後、チーム宿舎で行われる個別ミーティングだ。昨年から始まり、投手1人に対してコーチだけでなく、データ分析などを行うスペシャリストであるアナリストも同席。おのおの時間は違うが、1人約数十分のヒアリングを行い、キャンプでの目的を明確化する。
伊藤智仁投手コーチ(52)はこう説明する。
「お話を聞くだけです。どんなピッチャーになりたいのか、どういう目標があるのか、このキャンプではどんなことをしたいのか。基本的には選手の言っていることを尊重しながら、もし行き詰まっているようなら、こういうアプローチの仕方もあるよ、という話をする」
あくまでもプレーするのは選手のため、選手第一で話を進める。決して、指導者側から取り組むことを強制したりはしない。「ホークアイ」などのデータをもとに、根拠づけをしながら課題解決へのアプローチをする。キャンプイン後、ほとんどの投手と第1クールで意見を交換。そうすることで約1カ月間、目的意識を持って日々の練習に打ち込むことができるのだ。
「漠然とキャンプに入るのではなく、目的意識を持ってほしい。昨年の反省点も踏まえながら、今年はどういう取り組みをしていけばいいのかというのを、より明確にする感じですね」
実績としても表れている。ルーキーイヤーの2021年に1軍登板なしに終わった木沢が、昨年の春季キャンプでシュートを本格習得。シーズン中も武器となり、チームトップタイの55試合に登板しリーグ連覇に大きく貢献した。この「木沢はシュートを覚えたほうがいい」という発想の根幹にあったのもこの個別ミーティングだ。「本当は木沢にはもっと違うテーマがあったんだけど、投げていくうちにこっちでもいいんじゃないの? というふうになった」と伊藤コーチ。コーチと選手が課題に対し共通認識を持ったことで、解決の糸口を導き出したのだ。
球団初のリーグ3連覇と日本一奪還には投手陣の奮闘が必要不可欠。今春の沖縄・浦添キャンプにはD1位・吉村(東芝)を筆頭に昨年のドラ1左腕・山下、最速154キロ左腕・長谷川、高卒2年目の竹山ら将来有望な投手が数多くいる。〝投手改革〟で戦力を底上げし、〝新鮮力〟とともに頂を目指す。(赤尾裕希)
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