選抜選考の風物詩だった電話連絡(2021年の大阪桐蔭) ■1月29日 受話器を手にする光景が絵になるのは、この日くらい…だった。27日に開催された「第95回選抜高校野球大会」(3月18日開幕=甲子園)の選考委員会で、今回から校長へ吉報を伝える恒例の電話連絡はなくなった。簡素化の流れに風物詩も飲み込まれてしまった。
夏の甲子園と違って、主催者が学校を招待する-が選抜の趣旨。各連盟から推薦された段階で、出場承諾を得ていると判断できる。高野連からの電話に「謹んで…」といった返答はセレモニー的な意味合いが強かった。ある意味、校長冥利に尽きる?一日は消滅したワケだ。
1993年2月1日の選考日、当落線上の関東圏の複数の高校に悪意に満ちた連絡が入った。選抜決定に、喜んだのもつかの間、イタズラ電話だと判明。天国から地獄。「あの時は大人を恨んだ」。当事者となった球児は後日、こう語っていた。今も、あの瞬間を忘れられないという。
今大会は史上初の2度目の春連覇が懸かる大阪桐蔭、5校目の夏春制覇を目指す仙台育英(宮城)、昨秋の東京都大会を制しながらも、監督の暴力事件が発覚した東海大菅生に、清原和博氏の次男が在籍する慶応(神奈川)と話題は尽きない。また昨年の東海地区のような〝疑惑選考〟がなかった。何よりだった。
ネット中継で事前に結果を知ることが可能となったこともあり、選抜選考から電話が消えた。ナンバーディスプレー機能が普及していなかった30年前、高校野球の黒歴史に残る一報を、受話器越しに伝えた〝高野連のサトウ〟と名乗った人物は何を思うのか。〝悪用〟されない高校野球であってほしい。無駄をそぎ落とした儀礼廃止には時に寂しさを感じるが、今回ばかりは英断だと思う。(稲見誠)
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