菅義偉前首相が岸田文雄首相に苦言を呈したことが、自民党内で波紋を広げている。岸田首相が就任後も派閥会長を務めていることに対し、菅氏は「派閥政治を引きずっているメッセージにつながる」などと批判。〝岸田降ろし〟へののろしとまで取り上げられた。
菅氏自身は無派閥で、「歴代首相は派閥を出て首相を務めた」との主張に異論はない。一方、岸田首相が岸田派会長にとどまっていることで、ゆがんだ政策を打ち出したといえる明確なものもない。この時期にわざわざ正論を持ち出して批判するのは、岸田首相に〝揺さぶり〟をかけて次の展開につなげるという意図があるに違いない。
岸田首相は菅氏が首相だった当時の総裁選直前、それまで5年間幹事長職にあった二階俊博氏について「党要職は一期1年、3期まで」と〝二階外し〟を主張して菅首相を揺さぶり、〝菅降ろし〟へつながった。首相就任以降は菅氏と会食する機会もあり、菅氏が公然と批判を口にする場面はなかった。しかし、防衛費増強や少子化対策を巡る増税方針にも「突然だった」と指摘するなど、菅氏は政策面でも批判を強めている。
「次の展開」として、菅氏は自身の再登板は想定していないにしても、具体的な人物は頭の中にあるだろう。河野太郎デジタル相という見方もあるが、別の人材が浮上してくる可能性もあるのが自民党だ。
いま衆院解散・総選挙をしても自民党が大きく負けることはなく、増税方針に反発があるにしても解散すれば一つにまとまり、首相の求心力が強まるのも自民党。それを狙って岸田首相は増税論議を持ち出したとの説もあるほどだ。結局、党内競争が自民党の地力になっているように見える。(政治評論家)=毎週日曜掲載
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