――師匠、東京湾のタチウオが年明け後、すごいことになっているって聞いたんですが…。
「おお、東京湾のタチウオは、ここ数年、一年中釣れ続くようになって、数、型ともにもはや日本一と言われているが、昨年12月半ば以降急に釣果が落ちて『さすがに陰りが見えてきたな…』と言われ出していたんだ。ところが、年明け後に再び絶好調になった」
――それも半端じゃないそうですね。
「ああ、真偽のほどは分からんが、東京湾の漁船が巻き網で膨大な量のタチウオを巻き上げ、あまりの多さにこのまま市場に揚げると“値崩れ”が起こる-と半分以上、海上に放棄したって話も出ていると聞いた」
――えっ、そんなもったいないことするんですか。
「これも真偽のほどは分からんが、禁止されている夜間操業で捕ったものらしいという話だ」
――何だかイヤな話ですね。
「確かにな。しかし、いつも言っていることだが、これも東京湾という海が“世界に冠たる湾”である証ってわけだ」
――父にも聞いたんですが、数だけじゃなくてサイズもすごいらしいですね。
「ああ、120センチ級、130センチ級は毎日のように釣れており、140センチオーバーの“大太刀”も顔を見せている」
――140センチですか。去年の夏にもそんなサイズが釣れたって聞きましたが、いるんですね、そんなサイズが。
「ああ、西日本では、よく“指7本“、”指8本”なんて言い方をするが、長さもともかく、魚体の幅が半端じゃなくなるからな」
――今の時期のタチウオは、脂が乗っていておいしいですよね。
「ああ、タチウオは周年うまい魚だが、特にこの時期は皮と身の間に脂が蓄えられ、“炙り”にするとバチバチ火花が弾けるくらいだからな」
――タチウオは皮を炙ってお刺し身にした方が断然おいしいですものね。焼いても煮てもおいしいお魚ですけど、“炙りのお刺し身”が最高ですよね。
「おお、俺も“炙り”の刺し身が断然好きだな」
――今なら間違いなく釣れそうですから、行きましょうよ。タチウオは冷凍保存しても、あんまり味が落ちないじゃないですか。たくさん釣れたら冷凍しておけば、しばらく楽しめますよ。
「そういえば、タチウオ釣りにもずいぶん行っていないな。魚影の濃さは半端じゃなさそうだから、今なら確実に釣れそうだな。父君も誘って出掛けてみるか」
――ええ、行きましょうよ。父も絶対行きますよ。
「おお、分かった。父君の都合を聞いておいてくれ」
――はい。分かりました。
この記事をシェアする