■1月25日 「五輪に出ることはすべてではない」という新谷仁美の言葉は胸に刺さった。先日のヒューストン・マラソンで日本女子歴代2位の2時間19分12秒で優勝。23日の都内での会見では21年東京五輪1万メートルに出場した経験からこう話した。「五輪が正義みたいに思われていたけど、本当に五輪が国民に求められているのかどうかを選手として感じた」。
来年のパリ五輪の日本代表を決める一発勝負の選考レース(10月15日)には、昨年3月の東京マラソンで日本人2位となった新谷も出場資格がある。しかし、それには背を向け直前のベルリン・マラソン(9月24日)であと12秒まで迫った日本記録に挑戦するという。
34歳の実績豊富な現役選手の発言だけに重い。コロナ禍での開催が批判を集めた東京五輪を前に、選手たちが沈黙していたときも「国民の意見を無視してまで競技をするようではアスリートではない」と発言し一石を投じた。テレビでのちゃめっ気たっぷりの印象とは別に五輪に対する一貫した姿勢を感じる。
スピードスケート五輪金メダリストで引退した小平奈緒さんは、札幌五輪招致の協力要請を「五輪を利用されたくない」と断ったという。噴出した東京五輪の汚職事件が背景にあった。新谷の発言にも多分にその影響を感じる。JOCや各競技団体は「何言ってるんだ」と聞き流すのか、それとも現役選手からの問題提起として受け止めるのか。
当然新谷も言いっ放しではなく、発言に責任を持たなくてはならない。マラソンで記録を残す理由は「支えてくれる感謝の気持ちだけ。今年チャンスと思った」と説明した。その意気やよし。五輪至上主義に風穴を開けてもらいたいものだ。(今村忠)
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