全日本ボクシング選手権で2連覇した入江聖奈(2022年11月27日) 「球場でお母さんを探すんです。お母さんを見たら、追いかけている選手のことが少し、分かってくるんです」
あるベテランのプロ野球スカウトの言葉が印象的だった。そのスカウトによると、プロ入り後、子供の体格は母親に似てくるという。スタンドで子供を応援する母親の姿もチェックし、伸びしろを見極める材料の一つにすることがあるそうだ。
記者にとってスタンドでの家族取材は必須。試合中、記者席にいることはほとんどない。今年もメインの取材場所は熱気あふれる応援席だった。そこで、子供の人生の門出を温かく見守る2人の母親に出会った。
「14年間、競技を続けてきて、こんな幸せな終わりを迎えられるなんて、そうあることではない。娘は皆さんに幸せをもらっています」。こう話したのは11月27日に閉幕したボクシングの全日本選手権女子フェザー級で2連覇を果たして、現役を引退した入江聖奈(せな)さん(22)=日体大4年=の母・マミさんだ。
マミさんは愛娘の最後の雄姿を見届けようと、地元の鳥取・米子市から東京・墨田区総合体育館に駆けつけ、準決勝と決勝の2試合をリングサイドから観戦した。金メダルを獲得した2021年東京五輪は新型コロナウイルスの影響で無観客開催。現地では応援できず「きょうは見届けられてよかった」と顔をほころばせた。
「自分で決めたことは絶対に変えない。負けず嫌いで頑固」と娘の性格を表現するマミさん。子育てで大事にしたのは「反対しないこと」だという。「何に才能があるかわからないですし、何事も自分で考えてもらおうと思って」。
小2でボクシングを始めた聖奈さんは誰に言われることなく、自らの意思でノートに日記をつけるようになった。良かった点、悪かった点、気をつける点…。「ずっと自分を研究していたので、自身を客観的に見る力がついたのかな」。東京五輪の金メダリストに成長するとともに、明るいキャラクターでファンに愛される娘の姿を見て「いい風に育ってくれてよかった」。どこか誇らしげに笑った。
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