指導を終え、部員一人一人と握手するイチローさん=都立新宿高校(代表撮影) 2020年から新たなライフワークとして高校球児の臨時指導を行うイチロー氏(49)=マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター=が今冬、自らの興味で訪問したのは東京都立新宿高と静岡県立富士高だった。両校に共通するのは決して強豪校ではなく、部員も20人未満。文武両道を掲げ、普段の練習時間は2時間前後ながらも地域の小学生らに野球教室を行っている点だ。
「文武両道にすごく憧れがあった。僕は高校(愛工大名電)は完全に野球一本で選んだので…。この子たちは学業が一番。どんな世界に進むかは分からないけど、社会人になったらリーダーとなってほしい」
特にイチロー氏の〝アンテナ〟が反応したのが競技振興のための野球教室。子供たちの〝野球離れ〟に歯止めをかけるべく、都立新宿高では「新宿ベースボールアカデミー」と銘打ち、前半は部員が野球の実技指導、後半は進学校であることを生かして教室で勉強会。事前に選手たちが準備した問題集のプリントが配布される。さらにマネジャー主催で「スコアブックの付け方」講座も開かれる。
同高の田久保裕之監督(42)は「野球人口が減っていく中で、少年野球をやってくれている子たちは宝。そんな宝に対して、大人たちがかつて教わったことを今の令和の子供に教えるっていうのは、30、40年前と野球界が進歩してないんじゃないかって。保護者向けにけが予防、栄養学の口座なども用意してるんですけど、われわれ大人もアップデートしないと、まさに宝の持ち腐れになるよ、と」。ちなみに同高OBの田久保監督はイチロー氏がシーズン210安打を記録したオリックス時代の1994年には千葉マリンに足しげく通い、2019年のマリナーズ-アスレチックスの日本開幕戦ではホームランボールをキャッチしたくてグラブを持って東京ドームに陣取ったという。
静岡県立富士高の稲木恵介監督(43)も「野球人口が減っていることに危機感を持ったのがきっかけ」とし、①幼稚園児を対象にした野球交流会②小学生の野球未経験者を対象にした野球体験会③野球をやっている小学生を対象にした野球教室、の3本柱で振興活動をしている。その上で「今回、イチローさんに指導を受けたことを地域の子供たちにどれだけ還元できるか。それがものすごく大事。今はSNS時代ではあるけれど、イチローさんの動き、息遣い、迫力は直接間近で見た私たちじゃないと伝えられない」と話した。
イチロー氏は言う。「高校野球ではその学校によって、チームの形、目標設定はさまざま。必ずしも甲子園出場や優勝を目標としている学校ばかりではない。大切なのは『野球が好きで情熱を持っている』こと。今後もそれぞれのスタンスで野球に取り組んでいるいろんな高校生たちと一緒にやってみたい」-。現役引退から3年。終わりなき野球伝道の旅は続く。(東山貴実)
この記事をシェアする