阪神ファン感謝デーのオープニングであいさつを述べる岡田彰布監督=甲子園球場(2022年11月26日) 今オフ最大の目玉選手の移籍が決まった。西武から国内フリーエージェント(FA)権を行使して、森友哉捕手がオリックスに入団。個人的に、このFA移籍が大好きでして。
超大物が、自信満々に育ててもらった球団から出ていく。本来なら、出ていかれた球団は大損なのだが、これが「絶対」ではない。意外に失敗例が多い。巨人なんて、毎年のようにFA補強してきたから、毎年優勝しなければいけないはずなのに、それが実現できていない。12球団見渡しても、失敗例は実に多い。
FA制合意のサインを行う岡田彰布選手会長。奥はプロ野球事務局長、金井コミッショナー(1993年10月8日)それでも、毎年、権利を有した超大物は移籍を模索する。原稿を書く側として、成功例も失敗例も、ワクワクしながら書いてきた。そこにドラマは生じるから。
今やオフのドラマの主役、FA制度の生みの親は、間違いなく現阪神監督・岡田彰布だ。日本プロ野球選手会の初代会長・中畑清、2代目会長・原辰徳が日本にFA制度を導入しようと尽力を続けてきた。結実させたのが、3代目会長・岡田の時代だった。
主力選手が流出する制度だから、当初は12球団側の抵抗は、それは凄まじかった。そんな時に登場したのが岡田会長。当時の12球団側の窓口だった某球団の代表が明かした。
「岡田クンというのは、本当に話が分かる男。こちらの主張はジックリ聞いてくれるし、こちらへの意見も理路整然としている。頭が良いし、弁も立つ。たぶん、岡田会長の任期中にFA制度は実現すると思う」
実際、その通りになった。1993年のことだ。
この話に現在のトラ番記者は首をひねる。弁が立つ? 理路整然? 阪神監督としてのコメントは、実に面白いけれど、時々、急に別の話に飛んでしまったり、主語が変わっていたりする。聞く側は要注意だ。理路整然とはかけ離れている。
でも、それは本気を出していないから。昔の阪神の広報部長がそう解説してくれたことがある。
試合中に、阪神ファンがメガホンをグラウンドに投げ入れ、それが打球を追う選手に直撃する事件が起きた。翌日、球団が外野スタンドの応援団の元に出向き自制を求めることになった。
「僕も行きます」
立候補したのは岡田選手。試合前に自ら外野スタンドに行き、ファンにルール順守を求めた。これが名演説だった。「本気を出した岡田の話は、説得力があるよなぁ」。岡田選手の話を聞く私の横で、先の広報部長も唸っていた。
先日の阪神ファン感謝デーでの監督の挨拶。実にスムーズ。あれなどは「ちょっと本気の岡田さん」のような気がする。
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