日本代表から先制点を奪い、喜ぶコスタリカ代表=アハマド・ビン・アリ競技場(撮影・蔵賢斗) 【No Ball、No Life】
W杯開幕の約2カ月前、2016年にコスタリカ・リーグ2部のCSウルグアイ・デ・コロナドでプレーしていた山中敦史さんを取材する機会があった。印象に残ったのは、コスタリカはとにかく戦い方がはっきりしているということ。
「基本5-4-1で相手にボールを持たせてカウンターを狙う。国全体にこのスタイルが根付いていて、子供から大人まで同じサッカーをします。自分たちでポゼッションせず、相手にやらせる。W杯では日本が前半に点を取らないと、それはコスタリカの流れです」
まとめるとだいたいこんな感じだった。迎えたW杯での対戦である。動きも判断も鈍かった前半の日本は思うようにボールポゼッションできず、コスタリカにボールキープを許す時間があった。しかし、これはコスタリカにおいても主導権を握ったことにはならない。彼らはむしろ日本にキープしてもらい、したたかにカウンターを狙う展開のほうがよかった。要は、どちらも自分たちのペースで戦えていなかった。「(前半は)両チームともにコントロールできていなかった」と試合後に振り返ったのは森保一監督である。
ただ、0-0で折り返してしまった。そして、皮肉なことに日本の積極的な選手交代&システム変更によって後半はコスタリカが戦い慣れている方向へ動いた。スペインぐらい洗練された攻撃力があれば彼らの牙城を崩せたかもしれないが、日本の仕掛ける攻撃は力が足りず、決定的なチャンスも少なく1点が遠かった。
多くの人が「イヤな流れだな」と感じていたと思う。相手は不慣れな4バックで戦って大敗したスペイン戦から5バックに戻し、改めて気持ちを引き締めてきたコスタリカであり、こうした展開を大好物としていた。81分、集中力を高めてワンチャンスを狙っていた相手にやられ、日本は0-1で敗れた。「チームは団結し続けていた。戦術の勝利ではなく、コスタリカの原点に立ち返る勝利だ」と語ったのはルイス・スアレス監督だった。
決勝点を奪ったのは、右サイドハーフのケイシェル・フレール。コスタリカにはサプリサ、エレディアノという2大ビッグクラブがあり、フレールはエレディアノでプレーする選手で2016年はCSウルグアイ・デ・コロナドでプレーしていた。山中敦史さんの元チームメートで、「代表にまでなったフレールという選手がいるのですが、最初はベンチにも入れなかったのに、徐々に出場するようになっていった。急激に伸びて移籍し、代表で活躍する選手にまでなったんです」と教えてくれた選手だった。
国に根付くサッカースタイルというものがある。後半はたしかに日本が攻めていたが、それはコスタリカの選手たちにとって身体に染みついた自分たちのスタイルだった。フレールは試合後、「誰がゴールするかに関わらず、日本は攻撃が強いチームなので守備で負けないことが重要だった」と言葉を残している。サッカーは相手がいてやるもので、常にうまくいくものではない。今大会の日本は「新しい景色」であるベスト8に入ることを目標に掲げているが、コスタリカにはすでにその実績がある。当たり前だが、W杯は一筋縄ではいかない。だから、世界の人々を魅了するのである。日本サッカーは、またひとつ貴重な経験を積んだと言うほかない。(フリーランスライター・飯塚健司)
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