標高1000メートルの高地で空気抵抗が少なく飛距離の出る富士桜で、今大会の平均飛距離は321ヤードで全体4位。ショットで好機を作り、中尺パターを手に今季の平均パット数ランキング1位(1・6937)を誇るグリーン上で伸ばした。
記念撮影する大西(右)と日枝久・フジサンケイグループ代表(撮影・長尾みなみ)「一人で米国で、すごく苦しい、悲しい思いもした」
米国で力をつけた。NHKの語学番組の講師も務める東洋学園大教授の父・泰斗(ひろと)さんと母・泉さんの方針もあり、9歳で渡米。5歳で始めたゴルフと、英語の両方を学ぶためだ。最初は母が同行したが、数年後には一人になった。
英才教育で知られるIMGアカデミー(フロリダ州)を経て、名門の南カリフォルニア大へ。文武両道を貫いた。午前5時に起き、6時からゴルフ場で練習。一方で、一般の学生と同じ授業を受けた。専攻はビジネス。試験前でも練習はあり、睡眠時間を削った。「夜遅くまで勉強して、つらかった」。単位はすべて取得し、成績優秀者として学部長表彰も受けた。だが「ゴルフをうまくなりたかった」。幼い頃からの夢だったプロゴルファーへの道が、他の道よりも輝いて見えた。
コロナ禍で帰国した昨年5月にプロ転向し、迎えたツアー19戦目。今季ツアー最長の7541ヤードでモンスターコースと称される富士桜で、初の栄冠にたどり着いた。
「両親が道を開いてくれたので、今がある。日本で1勝できた。次は2勝目です」。1973年に始まり、半世紀の歳月が流れたフジサンケイクラシック。98年に生まれた大西の夢の続きは、富士の麓からつながっている。(阿部慎)
★その時 大西の母・泉さんは18番グリーン奥で雄姿を見届け「本当にうれしい。夢みたいです」と喜んだ。親元を離れて米国で奮闘してきた息子を「勉強は本当に頑張っていました。大変だったと思います。私は見守っているだけなので…」とたたえた。NHKの語学番組「大西泰斗の英会話☆定番レシピ」で講師を務める父・泰斗さんは多忙で会場には来られなかったが、自身のツイッターに「みなさま。息子の件で応援・お祝いの言葉、ありがとうございました。私もたいへん喜んでいます」(原文ママ)と投稿した。
■データBOX
◉…「フジサンケイクラシック」でのツアー初Vは大西で11人目(外国人招待選手除く)。05年に会場が富士桜CCに移ってからは、2005年の丸山大輔、08年の藤島豊和、11年の諸藤将次、14年の岩田寛、18年の星野陸也に次いで6人目。
◉…今季14戦目で20代の優勝は12人目(アジア共催のSMBCシンガポールオープンを除く)。最年少は「Sansan KBCオーガスタ」を制した河本力の22歳178日。次いで桂川有人の23歳197日、大西は23歳326日で3番目に若い。