名古屋場所に向けて稽古する朝乃山(右)=東京都墨田区の高砂部屋(代表撮影) ■7月9日 「事実無根です」-。2021年5月18日の人生を変えた〝世紀の大ウソ〟から419日。朝乃山が土俵に復帰する。大相撲名古屋場所(ドルフィンズアリーナ)の取組編成会議が開催され、11日の2日目からの出場が決まった。西三段目22枚目からの再出発。長すぎる謹慎がやっと解かれる。
接客を伴う飲食店訪問が発覚したのは昨年夏場所中。5月18日の聴取で全面否定したものの、翌日には〝完オチ〟して、20日の12日目から休場となった。処分は6場所の出場停止。同行者に唆されたとはいえ、噓をついたことがトドメを刺した。
3カ月後の8月には父親を亡くした。息子にとって謹慎中の別れは特に辛かったと察する。250万円の給与から今は無給。ちゃんこ番や部屋掃除など率先して…と報道されているが、それだけで改心したとは思わない。要はこれからの身の振り方だ。
元大関の故・初代貴ノ花(後の二子山親方)の言葉を思い出す。「土俵は勝った負けたが決まる場所じゃないんですよ。力士が、どういう生きざまをしているのか。歩みがわかる場所なんです」。白星を重ねる者が強い、ではない。逆も然り。数字だけではなく、目に見えない部分で判断が下される。それが相撲だとよく話されていた。
朝乃山の最短再入幕は来年春場所だといわれている。たとえ全勝で駆け抜けても、〝土俵〟は許してくれるだろうか。「ミスをしたことよりも、後の対応で、その人間がわかる」と若い頃から教えられてきた。個人的に1年間の〝強制休場〟は長いと思う。朝乃山の相撲内容も気になる。でも、勝ってよかったとは思わない。勝敗を超越した相撲人生が始まる。貴ノ花の言葉が身に染みる。(稲見誠)
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