【ノーサイドの精神】
ラグビー日本代表のPR稲垣啓太(32)は、「笑わない男」の異名を持つ。試合中もメディアに登場しても表情ひとつ崩さず、コワモテな姿からつけられた。
それは、稲垣が座右の銘とする「強くなければ生きていけない 優しくなければ生きている資格がない」に深く関係していると思う。
「強くなければ-」を胸に刻む理由を、こう打ち明ける。
「自分が苦しいときに周りに助けてもらった。人を助けるためには、まず自分が強くなくてはいけない。自分が律して強くいなければ助けるものも助けられない。その心を持ち続けることが大事だと思っている」
ラガーマンというより、一人間としての人生観を強調した。
故郷新潟で育った時代や、関東学院大で主将だった4年時に関東大学リーグ戦で1部にいたチームを31年ぶりの2部に降格させてしまった悔しさなど、さまざまな思いが根底にあるのだろう。周囲への感謝を込めながら説明を続ける。
「ただ自分の力だけを振りかざしていたら客観的に見て『なんだあいつ』となると思う。ちょっとうれしいことがあったり、『自分すごいかも』と思ったりしたときに感情を出さないようにしている。何事もなかったかのように振る舞う、それが僕の美学。ばか笑いもしないし、試合に勝ったときもおおげさに喜ぶ必要もないと思う」
グラウンドではFW第1列の一角を担うポジション。攻撃ではボールを持って前に進み、相手のディフェンスを引き寄せて外にスペースを作り出す。防御ではスクラムやラインアウトなどのセットピースを安定させ、密集でのディフェンス。PRとしての役割を全うするために体を張り続け、武骨な表情を貫く。
日本代表は現在、国内4連戦「リポビタンDチャレンジカップ2022」としてテストマッチを戦っている。6月25日のウルグアイ戦、稲垣は先発出場。セットプレーやディフェンスで存在感を見せ、チームのピースとして勝利に貢献した。ただ後半にはハイタックルでシンビン(10分間退場)を受け、反省も忘れなかった。
7月2、9日には世界ランキング2位で、来秋に迫るW杯の開催国、フランス代表と対戦する。4強入りを狙うW杯への試金石となる。
「ラグビーを通して、メッセージを発信できるんじゃないかと思っている。少しでも感じてもらえたら、ラグビー選手としてすごくうれしいことですね」。稲垣は真のプロフェッショナルだ。(石井文敏)
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