【NO BALL、NO LIFE】鈴鹿にカズがいる。その事実の大きさを痛感したのは、試合後だった。22日に行われた天皇杯1回戦。三重県代表の鈴鹿ポイントゲッターズは本拠地で兵庫県代表のチェント・クオーレ・ハリマを3-0で破り、2回戦に駒を進めた。FW三浦知良(55)の名前はメンバー表になかった。15日のリーグ戦で右太ももの付け根を痛め、別メニューの調整が続いていた。
会場に足を運んだ1038人のうち、5分の1ほどが試合後もメインスタンドを降りたところで待機していた。そこに、カズが来る。たちまちサインと写真撮影に長蛇の列ができる。着用していた普通の襟付きシャツにサインをもらった人もいた。「全員にサインしてくれるなんて、すごい」「見に来てよかった」という声が聞こえた。
このファンサービスは鈴鹿では試合後の恒例行事になっていると後で伺った。大人から子どもまで、全員が目を輝かせる瞬間。「カズ世代」ではない私にとっては、初めて生で体験したキングの影響力だった。日当たりがよく、ピッチの多い三重交通Gスポーツの杜鈴鹿の環境の良さもあいまって、鈴鹿に吹くサッカーの風を感じる。予約していた特急が運行を急遽取りやめ、慌ててレンタカーを借りて向かった苦労も吹き飛ぶ貴重な経験になった。
鈴鹿での1日から数日さかのぼり、16日。JFLのクリアソン新宿が10月9日の鈴鹿戦を国立競技場で開催すると発表した。会見で丸山和大代表は「サッカーを通じて、いろんな街の方とつながっていきたい。新宿の街のあらゆる方と一緒になって、新宿を感じてもらえる1日にしたい」と語った。
自分で書いたネット用速報の見出しは「JFLクリアソン新宿が10・9鈴鹿戦を国立で開催 カズが新国立で初プレーへ」とした。翌日の紙面では「カズ10・9国立で雄姿」となっていた。キングの影響力は重々承知しつつも、軸はあくまで主語は何か、だと判断した。ささやかな選択だが、新宿のアクションであり、その決断を尊重する意味でも速報の見出しを付けた。
生まれてからずっと大阪に住む私は、新宿のことをほとんど知らない。だからこそ、10月までになんとか現地で取材してみたいと思う発表だった。どこにどんな生活とサッカーがあり、誰がそこにいて何がないのか。一度覗いたら、ますます知りたくなる。鈴鹿と新宿のどちらも関心はあるのだが、残念ながら今は体が足りない。それでもなんとか知恵を絞って、ひとつの体でも継続取材できるように努めていきたい。(邨田直人)
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